2-9
あまりにも直球すぎてか、タバナが固まる。
ヒタオはその横で「え? え?」と、私とタバナを見比べている。なんか漫画にありそうなリアクションだけど、驚いた時って人間、本当にそういう仕草になるんだね。
何か言いたそうにしていたヒタオだったけど、聞き役に徹することにしたらしい。口を引き結んで、じっとタバナを見ている。
私もタバナを見つめることにした。
次に発言すべきは、あなたなのよ? という目を向けて。
外が暗くなってきて、蝋燭の炎が際立ってきた。室内に影ができて、表情も見えにくい。
私の両側に2つ、タバナたちの両側に2つ。
この部屋は、現代で暮らしてた自分家の部屋より大きいなと感じるから、10畳ぐらいだろうか。本当に暗くなったら、4つ蝋燭があっても足らない。明るくない。現代よりは。
でも多分こっちの人たちの感覚で言えば、これ、めっちゃ明るいんだろうな。蝋燭って、いくらぐらいするんだろう。
今日の集まった皆さんのアレで分かった。私は、ものすごく偉い人だ。多分。この社は、高級住宅なんだ。
タバナが目を伏せ、諦めらしき溜め息をついた。
ちょっと待って、溜め息つきたいのは、こっちですけど?
「ここはヤマタイ。貴女様は、このムラのミコです」
だらしなく口を開けるところだった。っていうか開いてなかったなら良いな。
無言で放心しちゃったわ。
ヤマタイって響きが、あるひとつの国しか思い浮かばない。
「そして、あの男がヤマタイを統べるオサです。この社に上がれる血筋でないとはいえ、ミコ様の処遇を決める権利があるのは、オサだけ。その節は、申し訳ありませんでした」
「……え……。いや、別に……」
洞窟に閉じ込められた件を言ってるのだろうとは思ったが、それはタバナのせいじゃないでしょ。と思うんだけど、違うのかしら。
「そして今日まではオサより別の命を受け、お伺いすること叶いませんでした」
イジメか。
タバナも苦労してんだな〜。
で、アイツは記憶喪失みたいになってる私のことも、雨乞いのひとつもさせりゃ、失敗して失脚するに違いない! って思ってたんかしらん?
「上がれる血筋って何? タバナもヒタオも、他の女の子たちも何か、ここに上がって良い血筋なの?」
「女性は、女性であるという血をもって、社に上がることができます。私は……」
と、タバナが言い淀むのを、不安げに見守るヒタオ。
なんつーか、さっきから距離が近いよねぇ、アンタたち。と、意味もなくイラッとするのは、なんだろう?
いや。
意味なくはない。だって私、タバナが好きだ。
が。
「……私は、貴女様の弟です。ミコ様」
2度目の放心。
おとうと?
ベタに漫画みたいに「ガーン!」と頭に衝撃が走ったかということもなく。とはいえ、はいそうですかと飲み込める話でもなく。
なんなの。少女漫画みたいな展開なの?
好きになった者同士が姉弟だとかって、ネタとしてはよくある話よね? いやタバナが私を好きなのかは分からないけど。姉弟だし。
「ミコ様。本当に、すっかりお忘れになっておられるなんて」
崩れ落ちそうな弱い声で呟いたのは、ヒタオだ。同情というには、もっと悲しみが籠もっている声に聴こえる。
なんだろう、ミコ様ってヤツは、人の心の機微にも
でも。
「ヒタオは、なんなの」
「ミコ様……」
居心地が悪くて、つい八つ当たりのような言い方になってしまった。せっかく親身になってくれてるのに。ヒタオ、良い人なのに。
いっつも、そう。
ヒタオは私を妹みたいに、子供みたいに扱って、あやして来る。赤ちゃんじゃねぇよ。
だから私はヒタオが嫌い。あなたのこと分かってますよ、みたいなスタンスで、こっちのイライラを受け流してくるんだ。
ヒタオが困っちゃえば良いのにって気持ちも、ないではなかった。
だから……社を逃げ出した。
「あ」
「?」
「いえ」
自分の記憶に戸惑ってしまった。
元の私の記憶じゃない。この身体の子の記憶だ。
でも意識してなかっただけで、この身体にしまい込まれているものを私は使ってるんだと思う。
今日の雨乞いもそうだけど、この人たちと言葉が通じてるってことに、まったく何の違和感も疑問も持ってなかった。この身体に備わっているからだ。
ツウリキも、そう。この身体が知っている、備わってる力だ。引き出す方法は、たまたま出来ただけだった。
記憶が身体に備わってるんなら、思い出も全部備わっていれば良いのに。どうしてそこは思い出せないんだろう。脳みそだって、この子のじゃん。
でも、そうなると「私」の記憶がなくなるのかな。二人分もは、共存できないとか?
そもそも私がこの世界に飛ばされたのだって、たまたまなのか、故意なのか? 分からないことだらけだしな。
タバナがそこまで全部を知ってるならって思ってたけど、この端切れの悪さからすると、あまり多くは望めなさそう。
とりあえず今の、この状態が何なのかだけでも教えてもらえたら有り難い話なんだけど……まさかの、
他に誰か、頼りになる人いないのかなぁ。
身内みたいな、この2人にしか頼れないのは辛い。
今この事実を突きつけられるのは、ちょっと痛いわ。
「私は……タバナの嫁です。ミコ様」
ヒタオは、これ以上ないぐらいにペッタリと
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