2020.6.19九州大学文藝部 三題噺

九大文芸部

あき 作:ぜんざい

大学生活の傍らで自分を熱狂させているものがある。いつも通りの風景に、いってしまえばスパイスを降り注ぐようなもの。最近は、何故か香辛料の量がエスカレートしてやまない。


20分近くだろうか。なんの面白みのない山がある。美味しい山菜もない。どこが面白いのか。年寄り夫婦が出入りすることもない。だから、自分が行ってやらねばなるまいよ。


荒れた山道は、自分を焦らす。夏ぶりに、水分を摂取する欲求が、常に自分を追い詰めてくる。止めどないストレスが溢れるばかり。ああ、背中に背負った、死体も可哀想だ。早く捨ててあげたいところである。


辿り着いた先には、使用されていない神社らしきもの、この世界の綻びの最骨頂ともいえるがある。もう原型もないくらいに。でも自分はそれが、神社であることを信じてやまない。ああ、そろそろだ。どこか異質なものを感じさせる井戸がその神社裏で待っている。


「待たせてごめんな。」

背中に背負った死体を、丁寧に井戸に落とす。至って単純な作業である。

第一の仕事を終えて、爽快感、達成感、優越感など数多の感情が自分を溺れさせる。しばらく、その感情に溺れていた。しばらくして、曇り空を覗いた。昔から、いらなくなったものを不法投棄していた頃を思い出す。いつからだろう。こんなことを繰り返すようになったのは。本当の自分は弱い。誰かに見てもらわなきゃいけない寂しい人間だ。そんなときに、この場所に来たのである。再び、山の深部へ潜り込む。少し奥には、銅像がある。古すぎて、分かりづらいが、小さな女の子を模したような銅像である。大好きな、大好きな銅像だ。その銅像に今日のことを報告して、終わりだ。


「ない。ない。ない。」

いつもの銅像がいない。銅像がいなければ全てが終わりだ。銅像があったはずの場所は落ち葉しか見られない。怖くなって、ひたすら、その落ち葉を切り裂いた。落ち葉が落ち葉ではなくなるくらいまで。


その後、世間で、未成年で死体遺棄事件を多数起こしたとして一人の人間が逮捕されるに至ったようである。その人間は、拘置所で、ひたすら誰かに謝っていたそうだ。

「君を飽きさせて、ごめんね。」

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