第2話「この映画でアカデミー賞はもらえない。だから、私が解説を入れる」

 先ず、決勝戦 明治大学VS関西大学のビデオから始まり、そこから、さまざまな試合を観ることで、私にとって思い出深い「第65回 全日本学生拳法選手権大会」となりました。


 私の勝手な思い込みではありますが、こういう日本拳法の楽しみ方もある、という参考にしていただければ幸甚です。 




 「 2020 日本拳法 全日本学生拳法選手権大会 決勝戦 明治大学VS関西大学

https://www.youtube.com/watch?v=yw3PIwyS_LM

石津雅之」



( ○ 第65回全日本学生拳法選手権 男子決勝

https://www.youtube.com/watch?v=xo0KqwYmcl0


 ○ 2020年 第65回 全日本学生拳法選手権大会(男子)【明治大学-関西大学】

https://www.youtube.com/watch?v=yw3PIwyS_LM

明治大学体育会拳法部)



 大学日本拳法日本一を決める最終決戦らしい、見ごたえのある戦いばかりでしたが、やはり、先に打つ・先に手を出す・先に仕掛ける側が一本を取る、というケースが多かったようです。

 

○ 先に仕掛けて(懸の先)勝つ →  先鋒(明治)、次鋒(明治)、三鋒(関大)、副将(明治)、大将(明治)

○ 参将は組み打ち主体(関大)

○ 中堅 明治の一本は「待の先」で、これで一対一となりましたが、三本目は関大の見事な先制(懸の先)の胴蹴りが決まりました。

 

 ○ 先鋒

 明治先鋒木村氏が、胴突きで一本取ります。(00:33)

 次は、コーナーに追い込み二本目のチャンスと見えましたが、こういう時、相手は切羽詰って死に物狂いになり「窮鼠猫を噛む」ことがある。それは木村氏が、前の大商大戦で経験した危うい場面のことです。

 

 → 大商大の教訓

 対大商大(副将)戦では、試合開始2秒、木村氏が速攻で面を取ります(17:45)。しかし、大商大の選手は、この物凄い面突きに少しもたじろがず、かえって闘志満々で逆襲します。


 → 2020 日本拳法 全日本学生拳法選手権大会 準決勝戦 明治大学VS大阪商業大学

https://www.youtube.com/watch?v=YL8Ml9imxTQ


 18:15からの数秒間に行われた大商大の選手(友滝氏2年生)と木村氏との2本の後拳の打ち合いは、全くの同時です。木村氏のパンチに臆することなく正面からガンガン打ち合いをしています。(試合時間30秒間で友滝氏計4発のいいパンチ。)

 友滝氏の突きの威力を知った木村氏は、相打ち勝負をやめたのですが、友滝氏もやはり、木村氏のパンチの威力を実感したのでしょう、ここが残念なところだったのですが、苦し紛れの面回しをしてしまった。


 「面回し」とは胴回しと違い、ちょこっと当たれば一本になるのですが、動きが大きい分遅くなり、非常にリスキーな技です。この前の三将戦で大商大の選手が、最後(やけくそ気味)に打った面回しが一本になりましたが、友滝氏はそれが頭に浮かんだのでしょうか。しかし、木村氏は、あのせわしない動きの中でも冷静に見て、友滝氏の回し蹴りを返してしまいます。


 この時の直面突きの力(スピード・激力・タイミング)は、友滝氏と木村氏とでほぼ互角(に私には見えた)なのですから、また、時間もまだあったのですから、ここで焦らず面突き(相打ち)勝負に木村氏を引き込めれば、一点突破(全面展開)の道が切り開けたかもしれません。(ビデオと現場とでは見え方が違うかもしれませんが。)


 西暦1600年関が原の戦いで、西軍の島津義弘は、わずか1,600の兵で1万5千の徳川親衛隊に向かって突進し、家康の鼻面をかすめて戦場を離脱(島津の退き口)。捨て奸(すてがまり)という玉砕戦法の繰り返しによって、大阪は堺の島津藩邸にたどり着いた(生き延びたのは数十名)という。

 頑敵に対して臆さず、逆に突進し、死に物狂いの攻撃で活路を見出すという島津藩の気迫をこの副将戦の30秒間で見たような気がします。



 面回しという大技は、なかなかが難しい。全日本個人戦の決勝戦で勝った木村氏自身も、勝利を急いだのか、相手を二回も投げ飛ばして少し油断したのか、必然性のない場面でこの技を使い、切り返されています。(2:20)

 → 2019 全日本学生拳法個人選手権大会 男子の部 決勝戦 木村VS冨永

https://www.youtube.com/watch?v=M7ljTXhmy-Y


 

 大商大の捨て奸(すてがまり)

 「明治の木村」というブランドに少しもビビることなく、勇猛果敢に、相打ち(玉砕 → 自分もぶん殴られるが、相手にもダメージを与える)の面突きを何発も繰り出し、決して勝負を諦めない精神力は、「西のヴェネツィア、東の堺」と呼ばれるほど勢いのあった難波商人(あきんど)の心意気なのでしょうか。(友滝氏は公共学科だそうですが、卒業後は公務員・警察官なんかではなく商社マンとなり、海外で殴り合いをして(活躍して)もらいたいものです)。


再び、関大戦に戻ります。

関大戦での木村氏

 さて木村氏は、大商大戦での「危なかった」局面をすぐに教訓とし、この関大戦に生かします。即ち、コーナーに追い込みながらも、無理に突入して決着をつけようとせず、一旦、囲みを解きます。「四つ手をはなし」て、敵を逃がします。

(岩波文庫「五輪書」P.93 四つ手をはなす)


 そして、「仕切りなおしだ」なんて素振りを見せて、一旦、敵をリラックスさせます。(P.90 うつらかすといふこと)。

 そこに、すかさず攻撃を仕掛け、転がして仕留めるのです。(01:30)



 「② 鞘に入った刀と抜き身の刀」で述べますが、これが「鞘に入った太刀」の一つの意味です。(言い方は悪くて申し訳ありませんが)どんなに格下の相手でも、慎重を期して確実に勝つことを優先させる。冒険をせず慎重に、チーム・組織の勝利を優先させるふるまいをする。(もちろん、いつも鞘に入ってばかりでは、公務員と同じで進歩しませんが。)

 


○ 次鋒戦 → 明治の二本とも懸の先


○ 三鋒戦 → 関大一本目の左前拳による面突きは、見事な待の先。二本目の明治の突きと三本目の関大の突きは、共に懸の先。

○ 副将戦 関大の相手は非常にやりにくい相手であるにもかかわらず、明治は懸の先で二本「もぎ取り」ます。

 どんな相手でも、強引に自分のスタイルで押しつぶすことのできる、こういう精神力の強い選手が一人でもいると、チームとして面白い絵を描ける。去年の明治の主将にこの精神力があれば・・・。


○ 大将戦は明治の二本共に懸の先。今大会、有終の美を飾る芸術作品ともいえるほどの見事な一本でした。 → ④ 日本拳法とは芸術である


 

 懸の先(自分から攻撃する)を行使する側が勝つ。もしくは、「懸の先」ができる間合い・踏み込みを可能にする気迫・気力を持つ側が心理的な流れをつくり、戦いの主導権を握ることで、最後の一瞬、物理的に圧倒するということでしょうか。



 今回(2020年大会)は、明治の木村氏と小森氏の進化を見、また大阪商業大学という非常に面白い大学を知りました。この大学は、今年(2021年)もまた大学日本拳法を面白くしてくれるでしょう。

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