笑いの絶えない国


 むかしむかし、笑いの絶えない国がありました。国の外からも聞こえてくるほどの笑い声は常軌を逸していました。まるで悲鳴のような笑い声。不思議なことに、それが一つではないのです。疑問に思った一人の男は、偵察をするために身分を偽って国に潜伏しました。国の中には、野菜や魚、肉、果物を売るたくさんの店と、それらを買う国民。ワイワイと活気があり、楽しそうです。一見するとおかしな点は見当たりません。男は色々と見て回りました。それがいけなかったのでしょうか。警備員の男に声をかけられました。


「君、やけに色々と歩き回っているね。まるで、初めて来たような行動だ」

「あ、いえ、……大事な宝物を落としてしまって。それで、歩き回っていたのです」


 怪しむ警備員の男に、男は咄嗟に嘘を吐きました。


「ああ、確かに君は何かを探しているようだね。どれ、私も一緒に探してあげよう。君の宝物は一体何なんだ?」

「……指輪です。ダイヤモンドを使った高価なもので、妻とお揃いの宝物なのです」

「それは困ったね。落としたのはこの辺りかい?」

「え、ええ……」


 警備員の男はどれどれ、と言いながら周囲を探し始めました。男も指輪を探すふりをして、偵察を進めました。食品を扱う店は長く続いており、それを抜けると立派なお城が見えてきました。お城からは声が聞こえます。引き攣れたような笑い声。国の外で聞いた笑い声です。お城の中は一体どうなっているのでしょう。すると、突然何者かに肩を叩かれました。男は身体を強張らせます。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは先程の警備員の男でした。


「見つかったよ、指輪!」

「なんですって?」

「高価なものだから、商人が拾って王様に献上したようだ。これから王様に事情を説明しに行き指輪を返してもらおうと思うのだが、君も付いてくるかい?」

「は、はい!」


 あるはずのない指輪が見つかったそうです。これは一体どういうことでしょうか。しかし、これはお城の中に入る絶好の機会です。男は警備員の男の後ろを歩き、城内へ足を踏み入れます。お城は豪華絢爛な調度品がたくさんあり、壁には大きな絵画が飾られていました。階段を上り、広い謁見の間に通されました。部屋の奥には、豪華な椅子に腰かけた老人がいます。立派な白髭は貫禄があります。どうやらこの老人が王様のようでした。


「王様、連れて参りました」

「うむ。ご苦労」


 王様は目の前の男を見据えました。その瞳からは何も読み取れません。


「指輪を探していると言ったな」

「はい」

「よくもまあ、そのような嘘が吐けたものじゃ」

「……え?」


 王様の言葉に、男は耳を疑います。


「偵察にでも来たのじゃろう。小賢しい男じゃ。牢屋に捕らえろ」

「はっ」


 男は逃げようとしましたが、屈強な男が二人現れ、男はなすすべなく捕らえられてしまいました。






 男は石でできた固い椅子に座らされました。両腕は手錠をはめられ、両腕を吊り上げるように、その先は鎖で繋がっています。今から拷問でもされるのでしょうか。男は身震いしながら屈強な男をじっと見つめます。屈強な男は手に何かを持っていました。それは、羽でした。彼は羽の先で露になっている男の右脇を優しく撫でます。男はくすぐったさに身を捩りました。けれど、捩った先にはもう一人の屈強な男が待ち構えていました。彼は左脇を羽の先で優しく撫でます。身体をくねくねと捩っても、二人の屈強な男が持つ羽から逃れることは出来ません。笑い声は絶え間なく、次第に悲鳴のようになっていきました。涙を流しながら男は思いました。国の外まで漏れていた声は囚人の叫び声だったのか、と。


Fin.

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