俺を殺したい死神少女と同居生活をすることになってしまった

島野トリプル

プロローグ

第1話 死神召喚

 ちょっとした出来心だったんだ。

 死神なんて本当はいないと思っていた。

 しかし今目の前には大鎌を携えた少女が立っている。

 腰を抜かす俺を見下ろすその目はとても冷たかった。


 そうか、死神は実在したんだ―

 


 

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 PC画面に表示された物騒な広告が目に留まった。

 死神召喚……新しいゲームの広告かな?

 そう思って広告をもう一度確認してみるが、それらしい記述はない。

 なら一体何の広告なんだろう…?

 いろいろ敏感なこのご時世にこんな倫理観ぶっ壊れてる広告を流す企業がまともなはずがない。

 そう思ったのだが、何か引っかかる……

 

 俺はネットで見かけたある噂を思い出した。


 ある日突然出所不明の死神召喚の広告が流れてくる。

 その広告は死にたいと願っている人の画面にのみ表示され、そこには呼び出すための電話番号が書いてある。

 その電話番号に電話すると本当に死神が来て魂を刈り取られてしまう。


 内容はこんな感じだったと思う。

 小学生が考えたのかと思うほど幼稚な内容だ。

 いや、今時小学生だってこんな噂話信じないだろう。


 でも…死神かあ。

 俺は神とか幽霊とかそういった超常的な存在は信じていない。

 しかし存在してほしいと願っている。

 だって、科学ですべて解明できてしまったらつまらないではないか。


 その小さな好奇心と科学への反骨精神から、俺は記載されている電話番号にかけてみることにした。

 一応電話番号をネットで検索にかけてみたが何もヒットしなかったし問題ないだろう。

 机のスマホを手に取り、番号を打ち込んで…発信!


 ―プルルル、プルルル、プルルル


 なかなかつながらない。


―プルルル、プルルル、プルルル


 やっぱりデマだったのだろうか。


 ―プルルル、プルルル、プルルル


 次出なかったら切ろう。

 

 ―プルルル、プルルル、プル…ガチャ


 つながった!?


 『こちら死神相談窓口です。魂刈り取りのご依頼でしょうか?』

 

 電話の向こうから声が聞こえる。

 女の声だ。

 俺はどう返答するか困ったので、


 「死神さんに会わせてください」


 勢いに任せて呼んでみた。

 

『かしこまりました。ではそちらに係りの者が伺いますので少々お待ちください」


 そう答えると電話は切れていた。

 

 相手は本当に死神だったのだろうか。

 感覚的には人間と電話するのと大差なかった。

 やけに事務的な受け答えだったし。

 もし悪質な詐欺だったらどうしようとは考えたが、死神を名乗る詐欺って何だろう。

 死神の名のもとに依頼者を殺して財産を全て奪うのだろうか。

 いや、非現実的すぎるだろ。

 これなら本当に死神が来ますって言われた方がまだ納得できる。

 

 そう思うと急にワクワクしてきた。

 死神とはどのような見た目なのだろうか。

 やっぱり骸骨が黒いローブを身に着けて大鎌を持っているのだろうか。

 でも電話の相手は女の声だったよな。

 骸骨で女の声ってしっくりこないよな。


 俺はすっかり死神が来るものと決めつけて妄想を膨らませていた。

 死神の登場を楽しみにさえ思うようになっていた。

 

 時は進み時刻は22時ちょうど。

 電話をしてから1時間経ったが、何の音さたもない。

 電話の相手は少々お待ちをって言ったよな。

 少々ってこんな長かったっけ。

 その長い待ち時間の間に俺は冷静さを取り戻していた。


 普通に考えて死神などいない。

 電話の相手は人間だったのだ。

 1時間前の自分が急に馬鹿みたいに思えてきた。

 そもそも本当に死神が来たらどうするつもりだったのだ。

 俺はまだ死ぬつもりはないぞ。

 そうだ、だから死神なんて来なくてよかったんだ。

 

 怒りを正当化し始めたらおしまいだ。

 醜い自分の一面に嫌気がさす。


 こうなったら風呂に入って嫌なことは忘れよう。

 そう決めると一度大きなため息をついて風呂場に向かった。


 頭を洗っていると、背後に視線を感じた。

 有名なシャワーあるあるだが、先ほどまで死神なんていう幽霊の上位互換みたいなやつのことを考えていたせいでいつもより居心地が悪かった。

 はやく風呂から出たくなり、急いで体を洗った。


 いつもより短いはずの入浴時間はとても長く感じた。

 人体の洗うべき場所の多さに煩わしさを感じながらも、なんとか全身を洗い終えて浴室から出ようと出入り口の方を振り返った。


 その瞬間、目の前に黒い裂け目のようなものが出現した。

 それの色はとても深い黒で奥は何も見えないが、背景との境目は曖昧で、まるで空間が破れたみたいだ。


 「な、なんだよこれ…」

 俺は絶句して腰を抜かした。

 目の前で起きている現象が理解できない。

 

 怖くて動けないでいると、裂けめの中から人間の足らしきものが出てきた。

 何かが裂け目から出てくる。

 頭ではそう理解していても体は動かなかった。

 だんだんと足の持ち主の全体像が見えてくる。

 やっと思考が追い付いたときには既に裂け目は消え、目の前には大きな鎌を持った少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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