吸血鬼と食卓を
ももも
第1話 ハク
「ましょう」という言葉を正しく理解しているか分からないけれど、おそらくハクのような人間を指すのだろうとヨウは常日頃から思っていた。
ハクは少女めいた顔立ちをしていて、ぱっちりした目の色彩は薄く、さらさらと揺れる銀髪は絹糸のようで、視界に入ったが最後、圧倒的な存在感を目に焼き付けていくようであった。
けれど、儚い印象を受ける容姿とは裏腹、中身は火傷しそうになるほど苛烈であった。
わがままで、自分がやることすべて正しいと信じていて、一度決めたら
ハクが騒ぎを起こすのは日常茶飯事で、頬をふくらませぷいと知らん顔をしている彼の隣で、とばっちりを受けたヨウが一緒に怒られるのもまた毎度のことであった。なんで僕までと文句を言おうものなら「お前が拾ってきたからだ」と皆、口をそろえて言ってきた。
ハクはこの村出身ではない。それどころか出自も分からない。成人の儀の祭の最中にヨウが迷子になり村総出で捜索したところ、桑の大木の根本でハクと頭をくっつけて寄せ合うように寝ていたのを発見したそうだ。
「お前を見つけた時、最初は死んでいるかと思ったよ。天使が寄り添っているような光景に見えたからな」
年の離れた兄はその時のことをそう語り、「実際は気性の荒い野良猫だった訳だが」と付け加えることを忘れなかった。
ヨウはどこでハクと会ったのか、何があったのかと聞かれても何一つ分からなかった。当時、ヨウは三歳だったのだから無理もない。ハクの親だと名乗りでる者はおらず、いきなり降って湧いて出た見知らぬ子供に周囲は戸惑いつつも、子は財産だとそのままヨウの家に引き取られた。
そんな縁があるからか。
ハクはヨウにだけ懐いた。
物心がついて以来、寝る時でさえ二人はいつも行動をともにしていた。背丈があまり変わらなかったため、同い年だろうとヨウの誕生日に一緒に祝い育った。
ヨウのカラスのような黒髪も相まって、モノクロコンビだと物心がついた頃から言われており、その名前は近隣の村にも知れ渡っているそうだ。
誰にも触らせようとしないハクの柔らかな銀髪をなでられるのは自分だけだと思うと、少しばかり優越感に浸ってしまうのも事実だったけれど、いつもゴタゴタに巻き込まれる立場として、手放しに喜べるとは言いがたい。
なので。
「
とハクが言い出したのを、ヨウはまた始まったと思わずにはいられなかった。
「そんなこと言っていると、また村長に怒られるよ」
たしなめるようにヨウが言うと、ハクはむうっと頬をふくらませた。
じっとその宝石のような銀色の瞳に見つめられると、心がうずずして彼の言うとおりにしたくなる。けれどその結果、どんな目に合うか身に染みるほど分かっていたので、努めて冷静に振る舞った。
「ヨウは疑問に思ったことないの? どうして子供はあの向こう側に行ってはだめなんだって」
「吸血鬼にさらわれるからでしょう? 耳にタコができるくらい聞かされているじゃないか」
「吸血鬼なんてただの子供騙しだ。大人は子供に内緒で何か外に隠しているんだよ」
「何かって、何?」
「それを確かめに行くんだよ!」
キラキラとした顔を向けられたが、ヨウは黙って首を振った。
「俺はパス」
「なんでだよ!」
それから続くハクの主張を、はいはいと適当に相槌をうちながら、時折バレないように空を見た。
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