06話 南に向けて
翌朝、まだ日が出たばかりだが行動開始する事にする。
「カノン。俺たちの拠点が必要なんだが、この村を使わせて貰ったらダメかな?」
この後も魔森林を進み仲間を増やさないといけないのだが、帰る場所は確保しておきたかった。
「問題ありません」
よし。とりあえずはここを拠点にしよう。
明日から村の復興を始めるらしい、丸投げの様で気がひけるが俺達はまだここに留まるつもりがない事を告げる。
まだまだ人族国家に対抗するには仲間が足りないのだ。
『私達人狐族もここで暮らす事に致しました。そこで私とカノンで昨晩話し合い族長を他の者に任せる事に致しました。私とカノンもアデル様と共に行かせていただきます。』
二人は新たに王になったものに長を引き継ぐ事にして俺たちと一緒に行くらしい。
確かに二人は俺の眷属になったが隷属させるつもりはない。
「良いのか?俺としてはレイカの負担も減るので助かるのだが・・・」
少し心配になったので確認したのだが、全く問題ないと言われてしまった。
どちらの種族も進化して強くなっているので、今なら竜には勝てないが、他の魔物なら問題ないそうだ。
強くなりすぎだろ!竜は魔物の最高位と言うだけあって影響値500万程はあったのに・・・まあ影響値が全てではないのであくまで強さの目安だ。
まあ二人は更に別格で、レイカと同等まで強くなっている。
この3人がいれば万が一もなさそうだ。
俺は多種族をまとめなきゃいけないんだ、その為には強い味方は心強い。
「二人ともありがとう。よろしく頼むよ!」
二人は笑顔で了承してくれた。出発する前にシズネが教えてくれたのは、ここから北のほうに行くと強力な魔物や亜人が居るらしい、少し興味があったが今は南に向かう事にした。
南に向かうと最終的には海に出るみたいだ。この世界にも海はあるが魔物もいるので危険みたいだな。
俺達は南に向かって歩き出す。
カノンが先頭を歩き俺が続き最後尾にシズネが続く、たまに先頭を歩くカノンの前に蛇やらオオトカゲが現れるがカノンが魔力を手から放出して追い払っている。
魔物は見かけることはあっても襲っては来ない。
魔物は本能で俺達を避けているのかもしれない、高位の魔物なら襲われる事もありそうだがこっちの方にはほとんどいないらしいしね。
そのまま3時間ほど歩いたので休憩しようと声をかけると、魔力感知に反応があった。
「この反応はあの竜か!!」
首輪をつけられて操られていた竜の事だ。しかしなんだ?反応が昨日よりかなり弱い。
しかしそれどころではない、かなりの緊張が襲う。竜にではない。カノンとシズネ二人が暴走しないかだ。
そんな心配をよそにシズネが話し出す。
「アデル様どうなさいますか?」
いや・・・なんで冷静なんだ?カノンも怒ってはいるが激昂はしていない。
「いや・・二人はどうしたいんだ?」
ここは二人に決めてもらった方がいいだろう。
「正直あの竜は同胞の仇だが、操られていた。この竜を倒しても大元を倒さないと意味がない、同じ事の繰り返しだ」
カノンが冷静に考えている。少し意外だがその考えは正しいと思う。
シズネもレイカも同じ考えの様だ、カノンの言葉に頷いている。
「そこでですがアデル様、倒すくらいならあの竜を眷属にするのはどうでしょうか?」
シズネにそう言われて考えこむ。
「出来るかわからないがやってみよう!」
そうと決まれば方法を考えなければ・・・竜は高位の魔物だ。
会話はできなくてもこちらの話を理解はできるかもしれない。
まずはこちらの意思を伝える事にした。
そのまま接近すると竜がこちらに気づくが威嚇はしてこない。
首輪で強制させられていたせいもあるのか、かなり弱っていると感じる。
「俺達はお前に危害を加えるつもりはない。しかし操られていたとは言えお前は村を襲っている。そのまま見逃す事は本来出来ないが俺の眷属になれば見逃してやる、どうする?」
いつ戦いになってもいい様に3人は武器を構えている。
竜からの返事はない、当然か。さてどうするかな・・・
俺は思考を加速させた。この後のことを考えていると竜が動き出し、俺の前に頭を差し出してきた。
「これは・・・」
意味がわからない俺をよそにシズネが話す。
「アデル様。それは服従するという意味かと思われます」
そうか。俺の言葉が伝わったかは分からないがこの竜を倒さずに済んで安心した。
「よし。眷属化!」
眩い光が竜を包んだ。眷属化が成功した証だった。
光が収まり竜を見ると目を疑う光景があった。
「「「え?」」」
みんなして声が出ない、そこに居たのは50歳くらいの執事服を着た黒髪の男だった。
しかし魔力が尋常ではない、ただの執事じゃないのは明白だった。
俺達が戸惑っていると男が声をかけてきた。
『この身を滅ぼさず慈悲を与えて下さり感謝致します。貴方様に救われたこの命、朽ち果てるまでお仕えさせて頂きます。』
えっ!?ダメだ!思考が追いつかない。
俺が首輪を外してあげたから恩義を感じてるって事かな?
「お前は竜で間違いないんだよね?」
『はっ!間違いございません』
間違いなかったみたいだ。俺は竜だった男に今まで何があったのか聞く事にした。
聞けば寝ている所を強力な人族に魔法をかけられ動きを封じられている隙に首輪をつけられたらしい。抵抗はしていたがそれでも抗う事が出来ずに村を命令のまま襲ってしまったと。
俺が首輪を壊して意識が戻った時には動揺し逃げてしまった、そして首輪をつけた人族についても詳しくは分からないとのことだ。
カノンとシズネは複雑そうな顔で話を聞いている。
『お主達にも悪い事をした、申し訳ない』
頭を下げている竜?を見て感じたのは、本来この竜は優しいのかもしれない。二人に謝っている姿を見てそう感じた。
少しの沈黙がありカノンとシズネが話し出す。
「お前も村を襲いたかったわけじゃない事はわかった。主人様の眷属になるなら・・・信用する事にする」
「私も、最初は憎かったのですがあなたも辛かったのでしょう。アデル様の眷属となったのです。許す事にします。同胞達もそう言うでしょう」
レイカは感動して泣き出している。しかしみんな強い生き物だな。俺は許すことなど出来ないかもしれない。
話が落ち着いてふと思った事がある。
「名前は何ていうんだ?あと、なんで人になってるんだ?」
色々あって忘れていたので今になって聞いた。
『はっ!名前はありませんが黒竜と呼ばれておりました。人の姿は貴方様の眷属にして頂いた時に得たスキルで御座います』
名乗っていなかったのでアデルと呼ぶようにまずは伝える。
なるほど要するに名前は無いのか。
「名前が黒竜じゃおかしいから何か名付けてもいいか?」
『よ、よろしいのですか?是非ともお願いしたく・・』
よし!異世界に来たら1回名付けをしたかったんだよね!何にしようかな?竜、りゅう、ドラゴン・・・・
「よし!ドランにしよう」
我ながら単純だと思うがいざ名付けようとすると意外と思いつかないのだ。
色んな小説で沢山名付けするファンタジーを見てきたが今になって苦労を実感する事が出来た。
『至極光栄に御座います。今後はドランと名乗らせて頂きます』
単純だが喜んでくれてるし良いだろう。
後ろで3人が悔しそうな顔をしているが気付かないフリをしておく。
「スキルも見るぞ!」
スキルを見る事を伝え天眼を使う。
名前 ドラン
種族 神竜
魔力値 1770万
属性 アデルの眷属
スキル 世界系 時空世界
身体強化、空間収納、思考加速、自動治癒、魔力感知、魔力衣、飛行術、擬人化、未来視、時空系統の魔法を応用可能。
待って!!強すぎる。元が竜だからか?しかもスキル付与はしてないから進化によって自力で獲得したのか。さすが竜だな!
しかも未来視とかすごいな。
*未来視 5秒先を常に見れる能力。
これだけで大体の敵には勝てるだろう。
あとは擬人化か。これで人型になれたのか。
正直知らないで見たら只の執事にしか見えないな。
『竜の姿にも戻れますが眷属として仕えさせて頂けるならこの方が良いかと愚考致しました』
俺としてはこっちのが落ち着くし、竜のままだったらここに置いていくしかなかったので都合も良い。
「同行を許すから、俺達に協力してくれ!」
『はっ!宜しく御願い致します』
こうして予想外な事があったがドランを仲間に加え先に進む事になった。
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