モスキートーン
有馬悠人
第1話
大人は子供を子供だと馬鹿にする。それは年齢的な意味ではなく、体の大きさでもなく、ただ、未熟者という意味で。ただ、大人は知らない。子供こそ、大きな力を持っているということを。
戦争や人種差別、人身売買や貧困に悩むことのなくなった夢のような世界。人々は平等の中に暮らせるだろう。そんな生活を得るためには、世界各国の政府に、統一の価値であるお金の撤廃を提案した。最初の5年は混乱が起きるだろう。それもそうだ。みんなが持っていたはずの共通の物差しがなくなったのだから。それに伴って、新しい法律を作る。
『労働の強制』『法の厳格化』『人々の自由は法の中のみの保証』
最たるものは、『個人はなくなり集団の一部である』ということ。
お金という概念がなくなり、仕事をする意味がなくなった。だから、『労働の強制』が必要になる。
共通の物差しがなくなったことで、個人の価値観を主張しないために強制的に縛るための集団の価値観として『法の厳格化』。
自由を得たいのなら、集団の価値観である法を守らせるための『人々の自由は法の中のみの保証』
差別を生まないために、あくまで個人という考え、価値観を撤廃するための『個人はなくなり集団の一部である』ということ。
でも、これはあくまで子供である僕の想像。
ここまでしないと、今の世界的な目標の達成は無理だろう。人間は醜い生き物。自制心があるからこそ、欲の肥大化を抑えられない。お腹が空いている時に少しだけ食べると、もっと欲しくなる原理と一緒。歯止めがあるからこそ、それが効かなくなる。それが大人になれば尚更。自分で、自由を得るための権利を買うことができるから。時間と体力を犠牲にして。犠牲にしているからこそタチが悪い。自分の権利を主張し始めるんだ。いかに自分が偉大であるかを、紙切れを靡かせて。そんな世界は嫌だ。そう僕は願ってしまった。
次の日。
僕の元に一つの手紙が届く。親が開けることは許されてなく、最新の技術で、誰が開けたのか、送った人に届くようになっていた。それを破ると、逮捕で禁固刑になる。僕は、その封筒を破る。
『これを読む時は1人で読んでください。あなた以外の誰かがこの手紙を読むことがわかった時点で、あなたをその人を逮捕。死刑になります。』
だいぶ怖い内容だが、この手紙を最初に見つけたのは僕だったため問題はない。僕の親は両方家に帰ってくることはない。お金だけ、振り込んで、そのお金で僕は生活している。たまに会うと、お金の話ばかり。こんな生活を送っているから、こんな思想になるのだと思う。お金さえなければ。手紙の続きを僕は読み始めた。
『あなたは国連トップの構成員に選ばれました。断ることはできません。もしこの情報を漏らした場合でも、私たちの力を持ってあなたをこの世界から消します。でも、あなたなら断らないのではないでしょうか?この世界に不満がある、あなたなら。そんな人を集めています。一緒に世界をいいものにしませんか?』
それで手紙の本文は終わっていた。あとは、迎えにくる日時と場所。何かの詐欺かもしれないと思ったが、興味があったのでこの手紙を信じることにした。
指定日時、場所に行くとある一つの高級車が止まっていた。
「お待ちしてました。こちらにお乗りください。」
黒いタキシードを着た、すらっとした人が迎えてくれた。その男に連れられるがまま僕は、その車に乗り込む。
「では、向かいます。シートベルトをお閉め下さい。」
そういうと、ゆっくりと車を走らせた。
「これから向かうところは完全に秘密でお願いします。世界の真実がバレてしまうと、愚かな人々の標的になってしまいますから。」
「愚かな人々って誰ですか?」
「あなたもよく知っている方々ですよ。でも、彼らは誰もあなた方のことは知らないし、聞こえもしない。その話はあなたを招待した方々に聞いてください。」
話しているうちに車はどんどん山奥に入っていった。一見何もないように見える。舗装されている道もなければ、あたりは木ばかり。
「つきました。少々お待ちください。」
男はそういうと僕を車から下ろす。
「そうだ。これをしておかないと。」
男は僕に近づいてきて、左手を出すように言ってきた。
「少し痛いかもしれませんが、我慢してください。これからあなたのために必要なことなので。」
男は僕の左の親指の付け根の柔らかい部分に銃のような機械をあててきた。次の瞬間、バンっという音が鳴り響いた。確かに、少し熱を感じて痛みがあったが、音の割に痛くはない。
「これで大丈夫です。」
「何をしたんですか?」
「ああ、あなたに埋め込まれているマイクロチップを破壊しました。生まれた時につけるでしょ?身分証明みたいなものですが、これがあると、監視されてしまうので、壊させていただきました。これとは別のものを埋め込むので、安心してください。監視されないようにするものと変えておきます。話はこれくらいにしていきましょうか。」
男に連れられて、徒歩で山の奥にあるという目的地に足をすすめた。
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