言葉ゾンビたちによる最後の戦い

ちびまるフォイ

最後までしぶとく残った言葉

「うわぁぁ! こ、言葉ゾンビだぁぁーー!!」


SNSの普及により街にたくさんの言葉があふれた結果、

血肉ならぬ言葉を求めたゾンビがついに現れてしまった。


「ウウウ……ゴトバァ……ゴトバヨコゼェ……」


「ぎゃああ!」


逃げ遅れた言葉がゾンビに囲まれてしまう。


「り、りんごーー!!」


リンゴという名詞がゾンビに食われて命を落としてしまった。

ゾンビとして蘇る頃にはその名詞は失われている。


「ああ、大変だ! あの赤くて丸い果物の言葉が失われてしまった!」


「ウアァァーー……ゴトバヨコゼェ……」


言葉ゾンビたちはさらにたくさんの表現を食い荒らそうと襲ってくる。


「こ、このままじゃ言葉が失われてしまう! はやく警察に!」


誰が通報したか言葉警察たちが銃をたずさえて飛んできた。

その銃口はまっすぐ言葉ゾンビたちの眉間へと向けられている。


「あれがもともと我々が使っていた言葉なのか……。今じゃ見る影もない……」


変わり果てた言葉の姿に言葉警察も悲しみを隠しきれなかった。


「早くこんな悲劇を終わらせなくては!」

「言葉ゾンビども覚悟しろ!!」


言葉警察たちは各々の銃の引き金に指をかけた。




が、いっこうに銃声はならない。


「どうした!? なぜなにもしないんだ!」


「許可なしに撃てません!」


悪いことに"発砲"という言葉はすでにゾンビになってしまっていた。

発砲、と指示を出される前に撃つことは言葉警察に許されてなかった。


「言ってる場合か! 今すぐ目の前に言葉ゾンビがっ……ぎゃーー!」


「け、警察ーー!!」


やがて"警察"という言葉もゾンビになり、関連する言葉もゾンビに食われてしまった。

人々はもはや助けを求める先をも失ってしまった。


時間を追うごとにゾンビは増え続け、街からはどんどん言葉が失われる。


「係長、いったいどうするんですか。このままじゃすべての言葉が失われますよ!」


「その係長って辞めてくれるかな。一応国のトップだし」


「本来の役職を意味する言葉は失われたんですよ」


本来はボス、と呼ぶべきだがすでにその言葉はゾンビになっていた。

ボスこと係長は苦渋の決断を迫られる。


「……あの爆弾を使おう」


「あの爆弾とは?」


「アレをソレするあの爆弾だ」


「もっと具体的に言ってくださいよ」


「言葉が食われたから使えないんだよ!」


「じゃあ絵で教えて下さい!」


係長は絵で自分の作戦を説明した。

絵心がないのでわかってもらえるまで時間がかかった。


意図が伝わるや部下は顔を真っ青にした。


「係長、正気ですか!? こんな爆弾を使ったら……」


「この街で被害を食い止めるにはこれしかないんだ。

 街ごと爆弾で焼き払って言葉ゾンビがこれ以上のさばらないようにする」


「今、街に残っている言葉たちはどうなるんですか!?」


「これ以上に大きな被害を出さないためにもしかたないんだ……!」


「係長……本当にそれでいいんですか。

 これから生まれる娘さんにも胸をはって正しいことをしたと言えるんですか!?」


「今この時代では我々は人でなしとなじられるだろうが、

 やがてこの決断が正しかったのだと信じてもらえるはずだ」


国のトップである係長の命令により、街をアレする爆弾が準備された。

空から投下された爆弾は街のいたるところにいたゾンビと、逃げ惑っていた言葉たちすべてをアレした。


ただひとつの言葉を残して絶滅した言葉の街は、ふたたび平和を取り戻す。


係長はこの大災害を経て、

しぶとく生き残った唯一の言葉を大事にしたいと思い娘の名前には生き残った言葉をあてがった。




「命名:ゴキブリ」

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