第4話下山

 まだ陽が高かったので、帰り道も問題なく下山できた。山登りで疲れていたけど、家に帰るには、まだ早い時間だった。麻子ちゃんが、そのまま、麻子ちゃんの家で遊ぼうと言ってくれた。




「しっかし、特に何も無かったけど、なんで、あんなに入っちゃダメなのかねー」

「だよねー。何にも危ない所なかったよねー」

田中君と麻子ちゃんは、大げさに注意し過ぎだと、文句を言って、盛り上がっていた。鈴木君は、そんな二人に声が大きいと注意する。その注意に、二人が反論しないので、三人とも、やはり、悪い事をしたという意識があるのだろう。

「うーん。昔は危なかったけど、人の手が入って、今は安全になったのかな。昔から、危ないって言われていたから、それがずっと語り継がれてる。とか?」

「佐藤が言うことも一理あるけど、マジでしつこかったんだよなー。山に近づくなって」

「でも、田中君。私、引っ越してから、お父さんに言われた事ないよ。そこまで、深刻に思ってないんじゃないかな」

「早紀のお父さんて、長い事、此処から離れてたから、忘れてただけじゃないの?」

「まあ、ずっと言われ続けてきたから。刷り込みで、子どもに言うようになってるってのは、あるな」

「たしかに、大きくなってからは、あんまり言われたことないもんねー」

田中君と麻子ちゃんの話の通りなら、私が、お父さんやお祖母ちゃんから何も言われなかったのは、長い間、山に登る心配がなかった所為なのだろうか。


 山についての話はそこで終わり、その後はいつも通りみんなで遊んだ。田中君と鈴木君は帰ったが、私は、麻子ちゃんの家で一緒にご飯となった。

 麻子ちゃんの家は、お母さんと麻子ちゃんのお兄さん、麻子ちゃんの三人暮らしで、私の家よりも、人数が少ない。しかし、私の家よりもずっと、麻子ちゃんの家は明るくて、賑やかだ。麻子ちゃんのお母さんもお兄さんも、明るくて優しい良い人だからだろう。皆で一緒にご飯を食べながら、会話をしているので、本当に仲の良い家族だと思う。忙しいから仕方ないのだけど、皆バラバラの自分の家と比べると、羨ましく思ってしまう。

 ご飯をご馳走してもらっている内に、暗くなってしまったので、麻子ちゃんのお母さんに、車で家まで送ってもらった。


 家に帰ると、居間で、お母さんが弟の慎吾の相手をしていた。此処に引っ越してきてから、お母さんは慎吾の相手ばかりしている。引っ越す前は、よく友達と遊びに出かけていたのに。此処では、新しい友達を作る気が無いのかな?慎吾もいつも家にいるけれど、良いのかな?


「ただいま」と声をかけると、「おかえり」とお母さんは慎吾を見ながら言った。


 自室にいると、笑い声が聞こえてきた。慎吾の興奮した、甲高い叫び声も聞こえてくる。お父さんとお祖母ちゃんも、仕事から帰って来ているようだ。

 引っ越す前は、私が慎吾の面倒を見ていた。お父さんもお母さんも、仕事などで家にいない事が多かったからだ。でも、ここに引っ越してきてから、皆は、慎吾の面倒をよく見るようになった。お父さんは前より仕事が忙しくなったと言っていたのに。

 お父さんとお祖母ちゃんは、慎吾には山に入ってはいけないと、言っているのだろうか?




 何か変わったことが起きないかと、心配だった。だけど、次の日も、いつもと何も変わらなかった。おかしなところも変なことも何もなかった。次の日の次の日も、そのまた次の日も。何も変わらなかった。これまで通りだった。いつも通りっだった。だから、何も変わらないと思っていたのに・・・。

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