第16話

「お義姉様、ちょっといいかしら?」


 お昼休み、食堂でビビアンは義妹のブレンダに話し掛けられた。これまでブレンダが、学園の中でビビアンに話し掛けることなど一度もなかったのに。


 なのでそれは当然、昨日のことを聞きたいのだろうと思ったが、ビビアンとしても話せることがあまりない。


「あ、あのね、ブレンダ...」


 そういったことを言おうとしたビビアンだったが、ブレンダはそんなことはお構い無しとばかりにスタスタ歩いて行ってしまう。


 仕方なしにビビアンは後を付いて行った。


「ね、ねぇ、ブレンダ? 一体どこまで行くの?」


 ブレンダは何も答えず黙々と歩き続ける。気が付くと本校舎からは随分と離れた、今は使われていない旧校舎に足を踏み入れていた。ビビアンは段々と不安になって来る。


 やがてブレンダは旧校舎の一室の前で足を止めた。


「ねぇ、お義姉様。私ね、とってもムカついてるの。なんでお義姉様を王子様が迎えに来るの? なんでお義姉様が王宮に住んでるの? お義姉様には婚約者だって居るのになんで? なんで? なんで? なんでお義様ばっかりぃ! 許さない許さない許さないぃ!」


 ブレンダは髪を振り乱して怒りを露にしている。その姿はぶっちゃけとても怖い。


「ぶ、ブレンダ!? お、落ち着いて!?」


 ビビアンはなんとか宥めようとするが、激昂したブレンダには逆効果のようだ。


「五月蝿い五月蝿い五月蝿いぃ! アンタなんかアンタなんかメチャクチャにしてやるぅ~!」


 それが合図だったのか、どこからともなく柄の悪い男子生徒達が現れて、ビビアンを逃がさないように囲んでしまった。


「アンタ達! この女をたっぷり弄んでやりなさい!」


 ブレンダが顔を醜く歪めながら指示を飛ばす。どうやらビビアンはハメられたらしい。


「へへへっ! 悪く思うなよ? お姉ちゃん?」


 下卑た嗤いを浮かべながら男達が迫って来る。数は全部で5人。実家で何度もビビアンのカウンターを食らっているブレンダは、当然ながらビビアンの能力を知っていたが、それはあくまでも一対一に対してのみだと思っていた。だが、


「あぁっ!?」「いぃっ!?」「うぅっ!?」「えぇっ!?」「おぉっ!?」


「う、ウソ!? こ、この人数でもダメなの!?」


 5人全員が叩きのめされて、やっとブレンダも気付いたようだ。


「ビビアン! 大丈夫か!? ブレンダに連れて行かれたと聞いて心配したぞ!?」


 そこへ急を知らされたライオスが駆け付けて来た。


「あ、ライオ...ライ様。は、はい、私は平気です...」


「良かった...貴様ら、覚悟しておけよ?」


 ライオスに凄まれて、ブレンダはその場に崩れ落ちた。

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