第7話

「あ、あの...ライオス殿下!?」


「ビビ。二人っきりの時はライと呼べと言ったよな?」


「え、えぇ、で、でもさすがに恐れ多くて...」


 ビビアンは尻込みするが、ライオスは黙ってじっとビビアンを見詰め催促する。言わないと許してくれなさそうだ。


「ら、ライ...様...」


「フンッ! まぁよかろう。ビビアン、もう伯爵家には戻らなくていい」


「えっ!? えぇっ!? えぇぇっ!?」


 ビビアンはまたビックリして声を上げた。


「王宮に部屋を用意する。今日からそこで暮らせ」


 いきなりの展開に付いて行けず、ビビアンはただ口をパクパクさせるだけだった。


「今日の帰りは俺が教室に迎えに行くまで帰るんじゃないぞ? 分かったな?」


 ビビアンは黙ってコクコクと頷くのみだった。



◇◇◇



 元々ライオスはビビアンと結婚するつもりでいた。幼馴染みとして一緒に過ごしていた時からビビアンのことが大好きだったのである。

  

 ライオスはビビアンも自分のことを好いてくれていると思っていたので、後は正式に婚約を申し込むだけという時だった。


 ビビアンの母親が儚くなってしまったのだ。 

 

 悲しみに暮れているだろうビビアンの心情を慮り、せめて喪が明けるまでは婚約の話をしないようにしていた。


 それが悪かった。


 なんとビビアンがスキル持ちであることに目を付けた筆頭公爵家が、バレットとビビアンの婚約を結んでしまったのである。


 直ちに婚約を無効にしたかったが、第2王子と言ってもライオスは正妃の子ではなく側室の子で、その側室であるライオスの母親の実家は侯爵家である。


 王族に次ぐ地位にある筆頭公爵家の意向を翻らせるだけの権力はなかった。まだ子供であるライオスにはどうしようもなかった。泣く泣く諦めるしかなかったライオスは、全てが嫌になり逃げるように隣国へと留学した。


 隣国で5年暮らし、学問を修める傍ら外交の舞台にも立ち、王族としての地位を確固たるものにして久し振りに母国に帰って来てみれば、幼馴染みのビビアンが虐げられていた。


 黙って見ている訳にはいかない。あの頃の何も出来なかった無力な子供のライオスはもう居ないのだ。今なら筆頭公爵家とだってやりあえる。


 婚約者であるバレットはビビアンのことを省みないと聞いている。じゃなかったら、ビビアンがこんな状態にあるのを放っておいたりしないだろう。


 だったら自分がビビアンを守る。今度こそ離さない。誰にも渡さない。幸せにしてみせる。


 ライオスはそう心に誓っていた。


 

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