レナとシェリーの冒険 -Rena and Shelley-

Libra

プロローグ

 もう…戦わなくてもいい。


 長く続いた戦争が終結して丸一日が経過したにも拘らず、私にはそんな実感が持てなかった。敵勢力の残党はとうに姿を消し、残ったアンデッド達は掃討され、先ほどまでの戦乱が嘘のように周りは静寂に包まれている。しかし、我々が拠点を構えた一定の領域の外には今でも無数の死体が転がっており、いつそれらが起き上がるかもしれないと思うと私は経過した時間を感じられず、なかなか張り詰めた気を緩めることができないでいた。戦いが終わってからずっとそんな状態だったからか、気づかないうちに眠ってしまっていたようだ。

「団長、起きてください。交代の時間ですよ」

 テントの外から顔を出し彼女はそう私に声をかける。

「生存者は見つかりましたか?」

「…いいえ」

 敵勢力の掃討後、私たちは生存者の捜索を続けていた。西の大陸から東の大陸ここまで、はるばる海を超えてきた時には、旅団と呼べるほどの人数の兵力があったが、この戦いを生き残ったのはほんの十数人程度だ。怪我人もいるので、そう長居もできず、明日にはここを発つことになるだろう。仲間を救出する最後のチャンスになるかもしれないと、気持ちと体を奮い起こしテントの外へ出る。

「私も周囲を見てきます。ここは任せますよ」

 そう彼女に伝え箒を手にしてテントを離れる。

 箒に乗って空中から生存者を探しながら私はこれからのことを考えていた。戦いが終わったとはいえ、西の大陸へ戻るには海を渡らなければならず、帰還までの道のりはまだまだ長い。上官たちが戦死した今、団長として私がしっかりしなくてはいけない。これ以上、この戦いで犠牲者が出るのはうんざりだった。

 そんなことを考えていると、近くの上空で赤い花火が上がった。赤い花火は「緊急事態」を知らせる信号。私は迷わず花火の方角へ箒を走らせる。敵の残党か、それとも負傷した仲間を発見したのか、今の状況で赤い花火を見て良い予感はしなかったが、それでも私は箒を進めた。

 現場に到着すると、私と同じく生存者の捜索をしていた二人が物陰に向けて杖を構えていた。

「何事ですか?」

「団長…」

 真っ青な顔をした二人は、物陰から目を離さなかった。私も杖を構えて一歩一歩、物陰へと歩を進める。小さな瓦礫が作る闇の中に身を埋めていたのは黒い髪、黒い瞳をした幼い少女だった。

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