【嫉妬神の加護】⑥

 次に現れたのは、先ほどさんざん倒したエメラルドゴーレムだった。


「今度は俺もやろう」


 さすがに、あれは後衛だけに任せるわけにはいかない。


 ゴーレムに向かい駆け出す。

 その巨腕が、俺へと振り上げられる。


 しかしそれが振るわれる寸前、ゴーレムの首元で爆発が起こった。


「!?」


 ダメージが一定量を超えたのか、ゴーレムに大きな仰け反りノックバックが発生する。

 すぐに思い至った。

 メリナの援護だ。


 俺はその隙を突いて、ゴーレムの首へと強烈な追撃を見舞う。

 そして、さらにもう一閃。


 それでHPがゼロになったようで、エメラルドゴーレムがエフェクトと共に四散した。

 今回は《物理耐性貫通》のバフなしだったが、高レベルの二人がかりならこんなものだ。


 俺はメリナを振り返って言う。


「そう言えば、あんたは爆裂魔法も使えるんだったな」

「まあね。無属性だけど、絶対役に立つと思って覚えたのよ」


 少し得意そうに、メリナが答える。


「でも、さっきも思ってたけど……アルヴィン。あなたもいい動きするわね。ひょっとして、レベルも高いのかしら」

「そこそこな。もっとも、後ろの神官様ほどじゃないが」

「え……?」


 そこで俺は、ココルへと目を向けた。


「それで、どうだ? ココル」


 ココルは、わなわなと震えながらステータス画面を凝視していた。

 そして、感極まったように言う。


「ま……間違いありません」

「……? 何よ、あなたたちどうしたの?」

「メリナさんっ!!」


 ココルがいきなりメリナへと詰め寄る。


「ええっ、な、何……?」

「わたしたちとパーティーを組んでくださいっ!!」

「だ、だから、組んだじゃない、もう……」

「そ、そうでした。なら、うう……ず、ずっと一緒にいてください!!」

「はっ、はあ??」


 メリナが微かに顔を赤らめ、目を逸らしながら口元を手で隠す。


「こ……困るわ。いきなり、そんな……それに私たち、女同士だし……」

「……はっ! わ、わたし、アルヴィンさんと同じことしちゃってます!」

「何がだ?」

「ええと、ですからその……これからも、同じパーティーでいてほしいんです!」

「……へっ? ああ、そ、そういう意味……だったの」


 こほん、とメリナが咳払いして言う。


「驚かせないでよ、もう……。でも、どうして? 言ったわよね。私はパーティーを組むべき人間じゃないって。私がいると、どうしても戦闘職がキルをためらうようになる。事故の確率が上がって、あなたも私も危なくなるのよ」

「いいえ……それは大丈夫なんです」

「何を言っているの……?」

「まだ話していなかったと思うんですが……実は、わたしたちもマイナススキル持ちなんです。……いいですよね? アルヴィンさん」

「ああ」


 ココルは、俺たちが出会った経緯や、ここに来たわけを説明する。

 メリナは、それを驚いた様子で聴いていた。


「れ、レベル【80】!? 一応、過去にそれくらいのレベルに至った冒険者は何人かいたようだけど……神官ではたぶん初めてじゃないかしら。そのマイナススキルのおかげで、そこまで上がったってことなの?」

「そうなんです。ボス戦に何度か参加したのが大きかったんだと思いますが」

「ボス戦のキルボーナスを全部独占できれば、確かにそれくらいになるかもね……。というか、アルヴィン。あなたもレベル【43】だったのね」

「ああ、俺は自分一人で上げただけだが。ソロでも数を倒さないと、ドロップ報酬が期待できなかったんだ。だから必然的にな」

「あなたも、よく冒険者になったわね。はあ……二人とも私と歳が変わらないくらいなのに、私より高レベルだったのね。てっきり、私が一番高いと思ってたのに」

「ココルはともかく、俺はあんたとそう変わらない。むしろ魔導士のソロでそこまで上げたのなら大したものだ」


 それから、メリナが言う。


「それにしても、まさか二人ともマイナススキル持ちで、私と目的が同じだったなんてね。パーティーを組んでいるから、てっきり普通の冒険者なのかと思ってたけど……でもそういえば、ここで出会ったって言ってたわね。剣士はともかく、神官のソロなんて普通じゃないって、気づくべきだったわ」


 メリナが続ける。


「事情はわかったけど……でも、どうしてそれが私とパーティーを組む話になるの? 同情してるだけなら、気持ちだけ受け取っておくわ。私には私のやり方がある」

「違いますっ! わたしには、メリナさんが必要なんです!」

「……どういうこと?」

「ステータスを……見てもらえませんか? わたしたち全員のステータスです」

「いいけど……」


 メリナが、言われたとおりにステータス画面を開く。

 そして、すぐに眉をひそめた。


「あら? どうしてかしら、私に《嫉妬神の呪い》がついてないわね。まだ時間経過で消えるには早いはずだけど……。え、待って、この経験値……もしかして、テンタクルプラントのキルボーナスも入ってる? ど、どうしてかしら」


 動揺した様子のメリナが、ステータス画面を操作していく。

 おそらく、俺やココルのステータスを見ているのだろう。


「アルヴィンにもデバフのアイコンがない。さっきゴーレムをキルしたばかりなのに……。え、ココルにアイコンが二つ!? こ、これって、まさか……!」

「メリナさん。【嫉妬神の加護】のマイナス効果、もう一度言ってもらえませんか?」

「モ、モンスターをキルしたパーティーメンバーに、全ステ3%減少のデバフを付与。経験値のキルボーナスを没収して、他のメンバーに均等に分配する……」

「わたしの【首級の簒奪者】の効果は、覚えてますか」

「パーティーメンバーがモンスターをキルした場合、それを……あなたがキルしたものと、みなす……」

「そういうことなんです」


 ココルがうなずいて、告げる。


「メリナさんのスキルのマイナス効果は、全部、わたしが引き受けることになるんです。だから……わたしが奪ってしまう経験値を、返せる。本来受け取るはずの、戦闘職のみなさんに」

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