【首級の簒奪者】①

 俺は剣を振り下ろす。

 最後に残ったHPも削り取られ、パラライズスライムはエフェクトと共に、その黄色い体を四散させた。


「ふう」


 一つ息をつく。


 俺は早くも、ここ落日洞穴の十七層にまで到達していた。

 十層までの浅層とは違い、ここらはダンジョンの中層と言われる地点だ。出現するモンスターもそれなりに強力になってくるので、たとえしっかりパーティーを組んでいても初心者には危険な階層となっている。


 まあだが、レベル【43】の俺にはまだまだ余裕だ。

 ソロでも全然問題ない。


 ただ……、


「……はあ」


 地面を見て、俺は落胆の溜息をつく。

 飛び散ったモンスターの体はすでに消えているが、そこには何も残っていない。


 案の定、何もドロップしなかった。

 普通なら、ハズレでもコインくらいは落とすはずなのに……。


 もちろんこんなのはいつものことだ。冒険者になってからずっとこうだった。

 それでも、つい最近までパーティーメンバーが倒したモンスターがごっそりアイテムを落とすのを間近で見ていたせいか、気が滅入った。


 やはり【ドロップ率減少・特】のスキルは最悪だ。

 これまで俺を追い出してきた奴らの気持ちが、あらためてよくわかった。こんなの見せられたらそりゃうんざりもする。


 ただ幸い、ボスや固定モンスターのドロップには影響しないので、このダンジョンに希望を持てていた。

 なんとしてもボスを倒し、スキルを消すというアイテムを手に入れなければ。


 しかしそれはそれとして、俺は思う。


「なんだか、変なダンジョンだな」


 浅層では普通にスライムやスケルトンが出てきたが、中層に来た途端レッサーサラマンドラやヒートスライムなどの火属性モンスターが出てくるようになった。

 だからてっきり火属性メインのダンジョンなのかと思いきや、ここにきてエレキスパイダーやパラライズスライムのような状態異常系のモンスターが続いている。いったいどういうダンジョンなのかわからない。

 まあ、こういうテーマ不明のダンジョンもたまにあるらしいが。


 気を取り直して、俺は歩みを再開した――――その時。


「――――きゃあああああっ!!」


 悲鳴が聞こえた。

 俺は足を止め、すぐにステータス画面を開く。マッピング済みのエリアと声の方向から当たりを付け、駆け出す。


 ここは中層も下部で、しかも状態異常系のモンスターが多く出る場所だ。

 もしかしたら危機に陥っているパーティーがいるのかもしれない。


 次第に戦闘音や、モンスターの鳴き声が大きくなってくる。

 そして、俺は見つけた。


 大量のゴブリンが群れとなっている。

 あの黄色がかった皮膚は、麻痺毒の短剣を装備するイエローゴブリンだろう。後方には、弓矢を装備したイエローゴブリン・アーチャーの姿もあった。


 そして、ゴブリンの群れ相手に聖職者用のメイスを振るっているのは……一人の少女。


 装備からして、職種ジョブは神官のようだ。

 パーティーメンバーらしき者の姿はなく、一人。

 少女は必死の表情でメイスを振るうも、群れに押されるようにして徐々に後退している。その肩には、すでに一本の毒矢が突き立っていた。


 俺は即座に地を蹴り、少女へ迫っていたゴブリンへと横撃する。

 水平に薙いだ剣に切り裂かれた二匹が、すでにHPを減らしていたのかただの一撃で四散した。


 少女を背後に、ゴブリンの群れへ目を向けながら、俺は叫ぶ。


「あんた大丈夫か! 状態異常回復キュアーは使えるか!?」

「えっ! ああ、は、はい!」

「自分を回復してろ! 壁は俺が務める!」


 言いながら、肉薄していたゴブリンの首を刺し貫き、消滅させる。

 このくらいのモンスターなら、弱点部位を突ければ満タンのHPからでも一撃で倒せる。


 飛んできた毒矢を、【剣術】スキルの一つ“パリィ”で逸らす。

 一体の首を飛ばしつつ、迫る一体を蹴り抜く。盾を構える一体は、【剣術】スキルの一つ“斬鉄”で盾ごと二つに断ち割った。


 そうして俺は、たった一人でイエローゴブリンの群れを殲滅していく。

 これくらい余裕だ。元ソロガチ勢をなめるなよ。


「あと二匹、と」


 最後の二体は、同時にかかってきた。

 HPの減っていた一体を難なく倒す。

 だがその隙に、もう一体は俺を避けるように横を抜けていた。


 俺は振り返って叫ぶ。


「一匹そっちに行ったぞ!!」


 俺が見た時、少女はすでに、自身のメイスを振り上げていた。

 そしてそれを、迫るイエローゴブリンの、最後の一体へと振り下ろす。


「えいっ!」


 メイスは見事に、ゴブリンの脳天を捉え。

 その体を、一撃で四散させた。


 エフェクトの中、ゴブリンがドロップしたアイテムの前で、少女は困ったように笑う。


「あは。えっと……倒せた、みたいです」

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