【ドロップ率減少・特】③

 数日後。

 明け方まで降っていた雨があがり、空に虹が架かったその日。

 俺は、件のダンジョンの前に立っていた。


 山肌に開いた巨大な穴。

 地下へ続くその入り口は、幾何学的な模様の石材で囲われている。無論人工物ではなく、ダンジョンが生まれる時に自然にできるものだ。


「……」


 周囲を見回すが、誰もいない。

 人気のある大きなダンジョンならば、入り口付近にはポーションや食糧、装備を売る露店が並び、客引きやたむろする冒険者たちの声でうるさいくらいなのだが、ここは静かなものだ。そう言えば、来る時も誰ともすれ違わなかった。

 典型的な、過疎ダンジョンの光景。


「……まあ、別にいいんだけどな」


 俺はダンジョンへ一歩踏み出す。

 すでに準備は調えている。今さら買う物もない。

 むしろ、ライバルがいない方が好都合だ。


 入り口をくぐり――――ふと横の壁に、何かが書かれていることに気づいた。

 暗がりで見にくいが、角度を変えつつなんとか読んでみる。




“老人は答えた。”


“「然り。この肉体は衰え、聖剣は錆び付き、魔の術を行使する心力も枯れ果てた。しかし、我が▒▒▒▒▒▒は、未だ▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒」”



“――――――落日洞穴”




「……ははあ」


 俺は文面の正体に思い至る。

 どうやら、これは思わせぶりな原典フレーバー・テキストらしい。


 ダンジョンには必ず、こんな意味ありげな文章がいくつも残されている。

 ある程度攻略され、情報が出回ればほとんど無視されてしまう代物だが、中にはボスや仕掛けギミツク、出現モンスターの情報や、隠し部屋に安全地帯の位置といった重要なヒントが書かれているものもある。ダンジョンを最初に攻略する冒険者にとっては、宝よりも貴重なものだ。


 ただこれは、そういったものではなさそうだった。

 一部が掠れて読めないが、単なるダンジョンの紹介文だろう。


落日洞穴らくじつどうけつ、ね」


 それがこのダンジョンの名前だ。

 ステータスにある現在地欄にも、その名称が表示されている。


 どういう意味だろう?

 大氷窟や霊骨回廊など、ダンジョンの名前はその特色を表していることが多いが、これはよくわからない。


 落日……斜陽……衰え…………?


「……ダメだな」


 やはりわからない。

 俺は考えるのをやめて、ダンジョンへ歩みを進めた。

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