第20話 うちは保育所ではありません。(からの)
こえが出なくなったライをあんしんさせるために、よくアルはライを抱きしめる。
シルカに至ってはアルが離れると泣くので、おんぶしている。
ソルは朝からソニアと戦闘訓練を始めた。
近所に住む元誘拐犯の黒猫獣人たちはよくアルの元へと、毛づくろいをしてもらおうとアルの元へやってくる。
するとライやシルカが怯えるので、黒猫獣人たちは一時出禁になったのだが、黒猫獣人は子供たちへの貢物をもってくるようになった。
絵本やら人形やら、なぜか必死だ。
そのかいあって、徐々にライは慣れてきているように見える。
アルは子供たちを見ながら、料理の研究を始めていた。
ある時黒猫獣人の筋肉質大男のサンが、黒猫耳が生えた赤ん坊を連れてきた。
「俺さ、奥さんに逃げられたんだ。けどさ、俺仕事があるもんで、赤ん坊見てらんないわけよ。頼む。信用できそうなのアルさんだけなんだ!この通り!!金なら払うからさ」
「え」
呆然としているアルに、サンは赤ん坊を手渡して出かけて行った。
ちょ、赤ん坊なんて見たことがない。
死んじゃったらどうするんだと、アルは腹を立てながら赤ん坊の首を支えるように気を付けた。
「どうした、アル?」
ソニアが部屋から不思議そうに出てくる。
「黒猫のソルさんが赤ん坊を預かってくれと、連れてきました。どうしよう。私赤ん坊なんて見たことないんです」
泣きそうな顔のアルを、ソニアはなでる。
「大丈夫だ。俺はシルカが赤ん坊の時から育てているからな」
そう頼もしく、ソニアさんは言ってくれたので、アルは心底ほっと、したのでした。
ソニアさんは街で赤ん坊専用ミルクを買ってきてくれ、そのミルク薪で熱して冷まし、熱湯で殺菌したスプーンで、少量ずつ赤ん坊に飲ませはじめた。
どうやら哺乳瓶がない場合スプーンでも、赤ん坊はミルクを飲むらしい。
ソニアさんは赤ん坊にゆっくりミルクを飲ませた後、抱き上げトントンと優しく背中を叩く。
「ミルクを詰まらせたら、大変だからな。俺も正解はわからないが、こうやってげっぷを出させる。寝かすときも喉を詰まらせると大変だから、顔を横に向けて寝かせる。赤ん坊はうまく体を動かせないから、大人のように苦しくない体勢が取れないんだ。気を付けてやらないと」
「へ、へぇー、そうなんですか」
武骨のソニアの手は、柔らかく赤ん坊に触れている。ソニアの赤ん坊を扱う様子は、どうにいったものだ。慣れているものだった。
「悪いが、俺仕事に行かなければならないんだが、大丈夫か?」
ソニアさんの心配そうな顔が、アルに突き刺さる。
「だ、大丈夫です!」
全然大丈夫じゃないが、そういった。
アルがご飯を作るときには赤ん坊のことを、ソルやシルカが見ていてくれた。赤ん坊を不思議そうに見ているソルやシルカを見ていると、微笑ましい。
慣れない赤ん坊の世話と、家事やらで、アルは疲労した。ソニアが夜帰った時には、玄関先でアルはソニアに抱きつく。
「お、おい、大丈夫か?」
ソニアは戸惑いながらも、アルの頭をなでてくれた。
優しく狼である。
それからしばらくしてサンが、赤ん坊を引き取りに来た。
心底ほっとしたアルなのでした。
まぁ、その夜深夜に赤ん坊が泣き止まないと、サンがまたアルのもとにやってきた。
赤ん坊を一日預かっただけなのに、どこかで噂になったのか、なぜかアルの家に子供を預けていく黒猫獣人を中心に大勢出てきた。
いや、なんで?
なぜこんなことになったのかと、アルは首をかしげる。赤ん坊を預かることに、需要があったのか?
皆がお金を支払っていくので、それはいいのだが、アルは子供を預かる専門的な知識はない。どうしたもんかと、必死こいて子育て経験のソニアに聞きつつ、少人数子供預かりを始めたのだった。
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