第16話 ライの話

ライ視点の話。


ライはぬくぬくの部屋の中で寝ながら、夢を見ているような気分だった。

美味しいご飯に温かい家に人、こんなに安心できたのは初めてかもしれないなと、思う。


ライは不細工だと言われて両親に嫌われていた。だが一応ライも働き手として、貴重な食料だけは渡されていた。でもいつも手渡される食料は一日一度だけで、いつもひもじい思いをしていた。

「お前は捨て子なんだ」というのがライの母親の決まり文句だ。

確かに獣人ライと両親は髪の色も瞳も顔もあまり似ていなかった。そもそも両親は人間だし。

ライは物心ついたときから両親の店で働くように言われて、朝昼夜休まず働いていた。あるときライは店の賃金を盗んだ疑いをかけられ、ライは殺されかけてその場から逃げ出した。

逃げ出したからって行く場所はない。生きたいとも思えず、ぼんやり路上ですわりこんでいたのだが、そこに仮面の人間がやってきてライに水と食事をくれた。耐え難いまでのライの体の悪臭も、必死にお湯で洗い流してくれた。なんだかライは自分が赤ん坊に戻ったような気になった。

その素顔をさらした仮面人間が作ってくれた朝ごはんは、信じられないほどおいしくて、なんだか泣いてしまう。

仮面人間は慌ててライの涙を拭く。

ライがなくと暴力を振るってくるので、ライはある時から泣かなくなった。感情を押し殺して生きてきたのに。

涙を拭いてくれた人間は初めてで、感情があふれ出してくる。ライは泣くことなんてばからしいと思っていたのに。

白い狼の子供はずっとライのことを睨んでいたが。

ライは耳がいい。

白狼の男は金がないと言っているのが隣の部屋から聞こえてきた。ライは捨てられるかもしれない。けれども今だけはこの幸せに浸かっていたいと、暖かな布団の上で思う。

「体調、大丈夫?」

仮面人間のアルがやってきて、ライの頭をなでる。

初めてライの頭はなでられた。

形容しがたい心地よさに、どうしてもここにいたい!と強い想いが込みあがる。

尻尾が揺れてライの目から涙がこぼれ落ちた。

「ら、ライ君!?大丈夫?」

アルは慌ててライの涙を拭いていた。


 





  余談だがライは何故かアルの人差し指を口に含んで、まるで母乳のようにちゅぱちゅぱ吸うのが日課になった。

しかも負けじとシルカはアルの服をますますカジカジと齧ることが多くなった。

何故に?

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