第14話 餓死寸前は危険


「お、男の子なんですか」

どう見てもアルの目の前の子供は女の子にしか見えない。まぁ、子供のころは男女見分けられないことがおおいが。

それにしてもライ少年はものすごく臭い。糞尿の匂いに、蠅がたかっている。家に帰ったら風呂に入れてあげたいなと、思う。

このスラムには風呂文化があまりなさそうなので、風呂がほしいなとアルは思う。

「アルは女か?」

ライの金色の目がアルを見る。

「いえ、多分男です」

「多分?」

不思議そうなライは先ほどアルがあげた干し果物を食べ始めている。

「自分が何なんだかはっきりしないですし。自分がこうであるって確信がないというか」

そんなアルの言葉にライは首をかしげている。

そのままライはよろけてその場に倒れてしまう。周囲の人は嫌そうな顔でライをよけていく。

「ライ君!!大丈夫?」

アルは慌ててライを抱え起こす。

「大丈夫。少し眩暈がしただけ。喉乾いた」

「アルはここにいてライを見ていろ。俺は食べ物を買ってくる」

「分かりました」

アルはライを心配しながら、ソニアの帰りをまった。


しばらくしてソニアはスープっぽいものと飲み物を買ってきてくれた。

「ライ君飲み物ですよ」

そう言ってアルはライに飲み物を差し出すが、ライはぐったりしたままだ。

ライの口元に水を傾けるが、大半は流れ出して口を開けたライが咳き込んでしまう。アルはライの背中を叩きながら、とち狂って自分の指を飲料水で流して洗い、指で飲み水を掬って、ライの口に入れた。

「指を吸ってゆっくり飲んで!」

ライは口の中のアルの指をゆっくりと、あぐあぐと吸い始めた。人間よりも鋭い牙が時々アルの指に突き刺さり、痛みに飛び跳ねたが。

スプーンもないので飲ませられない。

「スプーンを買ってくる」

ソニアが店の方へと行く。

「持ってきたぞ」

焦り険しい顔のソニアに、アルは手渡された木のスプーンで、アルはライに飲み物を飲ませ始めた。

ライはゆっくり水を飲み始める。干しフルーツは喉乾いたかなと、反省したアルだった。

そういえば餓死寸前の人間は食べ物を食べると、死ぬというのを思い出した。

「ソニアさん、病院に連れて行きましょう!」

「分かった。近くに獣人を見てくれる医者がある」

ソニアはライを抱え上げ、近くの病院に連れていく。そこのお医者さんは獣人に薬を出してくれるふさふさの黄土色の毛並みをしている犬っぽい獣人のお医者さんだった。

「おやまぁ、人間が来るなんて珍しい」

ふほふほおじいさんの先生は笑っている。

「路上で倒れていたところ食べ物あげたんです!そうしたらぐったりしてしまって、餓死寸前で食べ物食べたからかもしれません。どうしよう。そうだ。水も」

お医者さんはふむふむアルの話を聞き終えると、ライの様子を確認して言う。

「ふむ。この子意識はあるようだな。坊や、何日間食べ物食べてないのかな?」

「大丈夫。僕最近虫とって食べていたから」

「ふむふむ。まぁ多分貧血だな。なんかもう少し肉を食べたほうがええのう。あと少量の水を飲むなら大丈夫じゃ」

とお医者さんが笑うので、アルはその場で崩れ落ちた。次ご飯あげるときは何日間食べてないか確認してからにしようとアルは思う。



ソニアはライをおぶり、その日は子供たちへのお土産と食糧を手早く買い、早めに家に帰ることにした。

やはりスラムのどこもかしこにも路上に座り込んでいる人はいる。

帰り際道端に寄り掛かってぐったりしている人のそばに、アルは持っていたまだ飲んでなかった少量の飲み水を少し置く。

「これよかったらどうぞ」

「アル」

ソニアが呼んでいる。

アルは慌ててソニアの元へと戻った。


「鼻がもげそうだ」

そう言って顔をしかめるソニアに、私は微笑んだ。

「きっと力尽きて川にも行けなかったんでしょうね。ライ君食べ物すごく食べていましたし」

ライは必死に食べ物や飲み物を飲み込んでいた。口に入れなくては消えてしまうというように。

「そうだな」

街の方から見える夕日はたいそう綺麗だった。

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