第12話 初仕事と買い物に行くのこと


朝ご飯の準備をしているアルのもとに、ソニアがやってきて言う。

「これ受け取ってくれ」

ソニアがアルに手渡したものは、なんかわからない紙切れ二枚だった。

「なんですこれ?」

「金だ」

「え?」

「少ないが受け取ってくれ」

「ウ、受け取れませんよ!」

「何故だ?」

「だって、食費だってなにも払ってないし」

「お前は子守も家事もよくやってくれている。少ないくらいだ。それで今日アルの身の回りの物でも好きなものでも買え」

「で、でも」

ソニアは教会に寄付とか何かと最近出費が多いのに。

「洋服も俺の着回しでサイズがあってないだろう?好きな洋服でも何でも買え。まぁ、買うには金額は少ないが。それにアル、お前に仕事が舞い込んだぞ」

「え。仕事?」

「そうだ。今度礼で俺の冒険仲間たち集めて、料理をふるまうことになった。食費はカンパでぶんどってきたから、料理の食材も買ってくれ」

これが食材費だと、ソニアは袋を一つアルに手渡す。

「は、はい」

「安い食材かって、余った金は手間賃代わりに受け取っておけ。いやか?」

「イ、 嫌じゃないです!」

「そ、そうか」

詰め寄って叫ぶアルに、ソニアは戸惑ったようだった。

こうして今日はアルとソニアは買い物に行くことになった。


ソルやシルカも一緒に行こうかとアルは言ったのだが、三人では守りきれないとのソニアの言葉で、ソルとシルカはお留守番となった。

ソルとシルカは泣きながら駄々をこねていたが、ソニアの「お前たちは家にいて、今日は家を守ってくれ」という言葉と、アルの「お土産何がいい?」という言葉でおとなしくなった。

留守番になるソルとシルカに不安になったが、ソニアは「ソルとシルカは利口だ。お前たち俺たち出かけるから、留守を頼むぞ。誰が来ても今日は無視して部屋を出るな。全員敵だと思うんだ」そういうと、シルカとソルはこっくりと真剣な目で頷く。

「すぐ戻るからね。お土産買ってくるから」

そうアルが言うと、子供たちが嬉しそうに目を輝かせて歓声を上げた。

ソニアとアルは「いってきます」と言って外に出る。


初めてアルは街を出歩くので、わくわくしていた。仮面をしているアルを、ちらりと周囲の人は見ていく。

「やはり仮面姿って目立つんですかね?」

「いや、そんなことはない。よく仮面をつけている奴はいる。顔を隠したいやつとか、病気の時に疫病の神に連れていかれないようにと、厄除けでよく仮面をつける。見てみろ。仮面をつけている奴、少しいるだろう?」

見ると華やかなピンクや白や黄色といった鮮やか色の仮面をしている人間がいる。綺麗な仮面だなと、アルは感動する。

「綺麗ですね」

「仮面の配色にもいろいろな意味がある」

アルがしている仮面は白を基調にして、目元に朱色になっている。自分の仮面を触っていると、ソニアはそれに気づく。

「その仮面には家内安全健康運という意味がある」

アルの視線に気づいたソニアは気まずそうに、アルから目をそらす。照れているらしいソニアに、アルは微笑んだ。

「この仮面気に入ってます。ありがとう、ソニアさん」

「いや、いいんだ」

「そういえば、ジルさんって、ソニアさんのこと、ソニアラニアって呼んでますよね?」

「ああ、エルフの言葉で、名前の下に愛称の意味でラニアってつけるんだ。まぁ、……俺の場合はそれが本名なんだがな」

「ええ!?そうなんですか?」

ソニアではなく、ソニアラニアが本名。

本気で驚く。

「ああ。だがまぁ、ソニアって呼んでほしい。あまり本名気に入っていないんだ」

「分かりました」

スラムの街は見渡すと道端に薄汚れた人や、ぼろぼろの獣人の子が一人で座っていたりする。それを見ていると、アルは悲しくなる。

アルは偶然拾われただけで、道端にいつ座っていてもおかしくない。


「ソニアさん、ちょっとごめんなさい!」

ソニアの元からアルははなれて走り出し、路上に素足で座り込んでいる茶髪と獣の耳が付いた幼い少女のもとに近づく。

少女はぐったりした様子で、石を積み重ねてできた建物の壁に寄り掛かっている。

「あの、大丈夫?」

アルが声をかけると、少女は一度目を開けて、またすぐに目を閉じてしまう。

「これどうぞ」

アルはおやつ用に持ち歩いているドライフルーツの紙袋を、少女に手渡す。少女はきょとんとした様子で、アルのことを見ていた。

「それフルーツを干した食べ物だよ。おいしいよ」

まじまじと少女は紙袋の中を見ている。

「何か困ったことがあったらカタリ神父がいる教会に行くといいですよ」

そういうとアルは手を振り、ソニアの方へと戻った。


ソニアはアルを見る。

「すみません。お待たせしました!」

「いや」

ソニアは手を伸ばすと、アルの頭をなでた。

「救える命は限度がある。全部は助けられない。わかっているか?」

「はい」

「そうか」

「自分の目につく範囲で、自分のできることはしたいんです」

「そうか。それなら俺も手伝おう」

そう言ってくれたソニアがうれしくて、アルは大きな声で「はい!!」と叫んだ。

そうしてアルとソニアは歩き出した。

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