第4話 お母さんの事情と気持ち その一


次の日ジルさんに留守を任せ、ソニアとアルは一緒に出掛ける日だ。アルはごった煮スープをまた作っていると、ソルが走ってやってくる。

「あ、あいつら来てる!!」

「あいつら?」

ぐいぐいソルがアルの服を引っ張るので、仕方なく台所を離れる。

スープが焦げてしまう。

そこにはあのレアとクレアの金髪兄妹がびくびくうつむきながら立っている。

「あ、あの、ご飯貰えますか?」

クレアがびくびくしながら言う。

アルはソニアの方へと顔を向ける。ソニアは吐息をついて、「勝手にしろ」というので、アルは微笑んだ。

「どうぞ。あんまりおいしくないけど」


「早くしてください。お腹すきました」

なぜか偉そうにジルがいう。いつの間にかジルがテーブルの椅子に座っていた。

いつの間に?

「金払え」

ソニアが不機嫌そうに言う。

ジルはふんと、息を吐くと、「もちろんです」とそういう。

アルはというと、正直味見してもそんなにおいしくなかったので、プレッシャーである。

「おいしくなくても文句言わないでくださいよ!」

といい、鳥みたいな肉を適当に煮込んだものと、小麦粉をナイフでそぎ落としてゆでたものとか動物の乳らしいものを混ぜたものを出す。

本当は米があればいいのだが。

あれ?米ってなんだろう?と思いながら、ジルはご飯の準備を始めた。


なぜか朝ごはんは大盛況で終わった。

「なんで?」

心底アルは首をかしげながら、自分で作ったその味気ないスープを飲むのである。

ご飯を食べ終えたのを見計らって、アルはクレア兄妹に聞いてみることにした。

「二人のお母さんは今どうしてる?お父さんにひどいことされているって知っているの?」

そういうと、レアは眉にしわを寄せて苦悶の表情になる。

「母さんは、父さんに殴られる時ある。母さんは僕らのことかばってくれる。でも一緒に逃げようって言っても逃げてくれない」

「そう。少しレア君のお母さんと話したいんだけど、いいかな?」

ぽろぽろ泣きながらレア君は頷いてくれる。

「できればお父さんがいないときがいいんだけど」

「母さんの働く店なら知っている」

とクレアちゃんが言う。

「そうなんて店?」

「いわなくてもいい。聞いたことがある」

ソニアは知っているらしい。

「この辺りでも有名な店だ。俺が行ってくる」

「私も行きます!」

「行くのはいいが、それには条件がある」

「条件?」

「これをつけろ。決して外すな」

ソニアからアルに手渡されたのは、白い仮面だった。

「仮面?」

「そうだ外に出るときは決してそれを外すな」

「はい」

アルは頷いて、仮面を受け取った。


こうしてアルとソニアは、レアとクレア兄妹のお母さんの働いている店に行くことになった。

留守のシルカとソルは泣きそうな顔でアルのことを見ている。その隣にはどことなく不安そうなレアとクレアがいる。


「兄ちゃん、俺留守いやだ」

泣きそうな顔でソルがいう。

そんなソルの頭をソニアがなでる。

「アルいかないで」と、これはシルカちゃんが泣きそうな顔で言う。可愛いと微笑みそうになるのを必死でアルはこらえる。

「すぐ戻ってくるからね。ジルさんとお留守番仲良くね。今日はレア君とクレアちゃんもいるからね。おやつはテーブルの上に、お昼ご飯は鍋につくってあるから温めて食べるんだよ」

アルがそういうと、皆はお利口にこくりと頷く。ジルは不機嫌そうにしていたが。

アルはシルカのもっちりした頬を指でつんつんする。

「いくぞ」

ソニアが歩き出す。

「いってきます!」

アルは笑顔で皆に手を振り、街を始めて歩き出した。

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