アンジェロ・ジュスト
夏崎
1
雲の上の街、アルネリスには、今日も強い太陽の光がふりそそいでいました。
美しい石畳の街の中心には、大きな図書館と緑の木々で囲まれた広い公園があり、かわいい子供の天使たちは、いつもそこで水遊びをしたり、駆け回ったりして、ころころと笑いながら遊ぶのでした。
ミッチェルも、よい匂いのする太陽の下で、思う存分遊ぶのが大好きでした。
その瞳は光を浴びすぎたせいで、緑からとび色に変わっていましたが、ぱっちりと見開くまつげはとても長くて、いつも陽気に輝いていました。
今日は友達とかくれんぼをするのです。
ミッチは、じゃんけんには強いはずなのに、なぜか今日は負けてばかりいました。最後の三人の中に残ってしまい、サンダとマチルダがグーを出すと、ミッチはうなってチョキをひっこめました。
「ミッチが鬼だ! みんなかくれろー! 」
サンダが走り出すと、みんなも、わぁーっと歓声をあげてかけ出しました。広場のまんなかにミッチを残すと、翼を広げたり、姿を透明にしたりして、めいめい隠れに行きました。
「おれが鬼かー。ま、いつも隠れてばかりじゃ面白くないからな」
ミッチェルはゆっくり十数えると、さっそくみんなを探しに行きました。
すぐそばの噴水の中に、一人隠れているのは知っていましたが、彼はいつも一番に見つかってしまうのを嫌がりましたので、ミッチはあとで見つける事に決めました。
公園は、緑の木々たちがひっきりなしにおしゃべりしていましたが、みんな、子供たちの遊びをちゃんと心得ていて、自分の近くに隠れていてもぜんぜん知らないふりをしていました。
口笛を吹きながらミッチが歩き出すと、一匹の縞猫が足取りも軽やかにこっちへ向かってくるのが見えました。
「よう、チェダー」
ミッチは通りすがりに声をかけると、すばやく縞猫の首根っこをつかみました。
「なかなかいい度胸だな。」
縞猫は、なにやらにゃごにゃご言って、前足をばたつかせました。わたしはチェダーなんかじゃありませんし、そんな人は知りませんよ、とでもいいたげにミッチェルを見上げています。
「おいおい、いつまでしらを切る気だ? 証拠はあがってるんだぜ?」
ミッチが言うと、縞猫はばたばたと動くのをやめて口をききました。
「なんでわかったの?」
「なかなかうまく化けたけどなぁ、このアルネリスの街に、翼の生えてない猫なんてどこにいる? 」
そう、この街には、太った猫も、黒い猫も、縞の猫だってみんな、生まれた時から小さな白い翼を背中につけて、遊んだり食べたり、お昼寝したりするのです。縞猫は、しまったという顔をすると、あっという間にオレンジ色の髪をした小さな天使の姿に戻りました。
「ちぇー、いい考えだとおもったのに。」
「あとちょっとでしたな♪ 」
ミッチはおどけていうと、チェダーの柔らかい髪をぽんぽんとたたいて、他の子を探しに行きました。
ブナの木のてっぺんで、鳥の巣の中にまるまっていた赤毛ちゃんや、豆つぶほどに小さくなって、ミッチェルのポケットに入っていたルーファーや、すぐそこのパン屋のショーウィンドーのガラスに隠れていたレオを見つけると、あとに残るのはマチルダとサンダだけでした。
けれど、公園のまわりをくまなくさがして、レオの耳の穴の中(前にルーファーが隠れたことがあるのです)までのぞいてみましたが、二人の姿はどこにもみあたりません。
夕方になって、ノーノさんが赤毛ちゃんたちを迎えに来ました。ノーノさんは、とってもきれいでやさしいお姉さんで、小さな赤ちゃん天使たちを預かる仕事をしていました。
「サンダくんと、マチルダちゃんが? 困ったわね……。でも、もうすぐ夜が来るから、みんなはお家に帰ったほうがいいわ。通りすがりにマチルダちゃんのおうちがあるから、帰ってないか聞いてみましょう。ミッチくんは、サンダくんがおうちにいないか、見に行ってくれない? 」
ミッチェルはうなずくと、みんなはそれぞれちょっと不安げな面持ちで、おうちに帰っていきました。
空には大粒の宝石のような星が、いくつも輝いていました。
ミッチェルは、街並みをとことこ歩きながら思いました。
サンダのやつ、家に帰ってるとは思えないな。おれが見つけるまで絶対隠れているつもりなんだ。でなきゃ待ちくたびれて、眠っているか……。あいつが行きそうなところで、まだ探してないとこってどこだろう?
ミッチェルは長いまつげをしばたたかせながら、しばし考えて、ふと、虹の湖のことを思い出しました。
アルネリスには、湖や池がたくさんあります。(みなさんが空を見上げると、時たま、大きな雲の間に、ぽっかりと青い空が見えることがありますね? あれは、アルネリスの街の湖なんです。)そこから水面をのぞき込むと、はるか遠くに、たくさんの建物やビルが見えたものでした。
人間の住む町だと聞いたことがありましたが、子どもたちは誰一人、水をくぐって下へ降りたことがありませんでした。それは、そんな話は小さい子が信じるおとぎ話だと思ったか、そうでなければお仕置きをするよ、と大人の天使に言われていたからでしょう。
サンダは、そこに行ったんだ。
ミッチは、はっきりとさとりました。
彼はしまっていた翼を大きく広げると、夕暮れの街を虹の湖に向かって飛んでいきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます