弓矢

長月 有樹

第1話

 ぴゅーーーーーーーーーーっと矢が飛ぶ。今日も飛ぶ。飛び交いまくってる。そう飛び交いまくってる。あちらもこちらもぴゅーーーーーーーーーーっと矢が飛ぶ。空は弓矢が飛び交ってる。


 スマホを弄るSNSを行進する。送信ボタンをタップすると同時に弓矢を飛ばす。ぴゅーーーーーーーーーーっと矢が飛ぶ。


 そしてギャルが言う。

「弓矢?打ちたくない?」

 メイクを確認して、踊る歌う笑うを一通りして、映りを気にする。そして青空へと弓矢を構える。ギュッと弦を引きつける。弓矢を飛ばす。天空へ登る。ぴゅーーーーーーーーーーっと。


 マッチングアプリを使う。気になる人を見つける。近づきたいと胸が高鳴る。即座に弓矢を構える。ぴゅーーーーーーーーーーっと矢が夜空を弧を描いて飛ぶ。


 相手はノーマッチング。ぴゃーーーっと飛んできた矢はガラス窓にカツンとぶつかり虚しく落ちる。ノーマッチング。


 そんな世界に生きてたらやってられませんよ。

 

 僕は怯えていた。それは異質だった。けど僕は周りが異常だと思ってた。こんなに毎日数万数億では収まりきらない数の弓矢が空を行き交う。道に落ちた矢が。たまに送信エラーで割れるガラス。カラスが首を貫かれて弱りながらも羽ばたく。


 僕は怖かった。単純に怖かった。弓矢の誤爆は飛行機の墜落より可能性が低いと言われたって、まず飛行機の墜落の確率を知らない。ギャルがサラリーマンが少年が主婦が。みんな弓矢を大きい空へと向けている光景が。とても怖い。


 こんな当たり前が怖い。情報が怖い。誰かと繋がるのが怖い。知らない世界を覗き見るのが怖い。


 だって弓矢が怖い。当たると痛い。あんな鋭い矢先は誰かを狩るものだから。


 情報は人を殺す。


※この話は昨今の情報化社会に対して、なにか言いたいわけではなく、ランジャタイの漫才を観て書きました。

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弓矢 長月 有樹 @fukulama

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