絶対偶像!!〜推しのアイドルに裏切られたので、転生した新たな自分で理想のアイドル目指します〜
立鳥 跡
プロローグ
私は裏切られた。
自分の人生を賭け、青春全てを捧げたのに裏切られた。
働いて得た収入は生活費も切り詰めてグッズやCD、コンサートチケット代、遠征費に充てた。
初めて好きになったのは小学五年生の頃。
それ以来、他のアイドルには見向きもせずに十八年間応援し続けた。
私達ファンの期待に応えてくれている姿が嬉しくて懸命に応援した。
なのに裏切った。
突然の電撃婚。
相手はまぁまぁ売れている女優さん。
結婚には驚いたけど、別にこれに怒った訳じゃない。
彼は十五歳でアイドルデビューしてニ十年間アイドルを続けて来た。結婚してもいい年齢だ。
逆にここまで独身を貫いてくれた事に感謝したぐらいだ。
問題は結婚発表の際に彼が言った言葉だった。
「僕はずっとアイドルでいる事が辛かった。ファンに求められている偶像を演じるのがきつかった。そんな時にありのままの僕を受け入れてくれる彼女に出会って救われました」
彼は言ったのだ。ファンが重荷だと。人生を賭けて応援した私を重荷だと。
ショックだった。彼の為に全てを捧げてきたつもりだったのに、それが彼にとって辛い事だったと知って。
辛かったけど、まだ私は彼のファンだった。彼が幸せならそれでいいと自分に言い聞かせた。
だが、結婚を期にアイドル路線からバラエティタレントに路線変更した彼は、アイドル時代の事をネタにして人気タレントの道を駆け登った。
内容はこうだ。
「アイドルにファンは夢を見ちゃってるから演じるのが大変でしたよ」
「ファンって幻想いだき過ぎなんですよね。いい年した大人までアイドルにハマるとか痛くないですか?」
「全国ツアーとかあったんですけど、どのツアーにも同じファンが居るんですよ。ちょっと引いちゃいましたよね」
アイドルファンは激怒し、大炎上したけど、テレビの出演は増えている。
悲しかった。そんな風に思われていたんだと。
同時に裏切られたという気持ちが湧いてきた。
あのファンに優しかった彼も、ひたむきに一生懸命踊り、歌っていた彼も全てが嘘だったんだと。
行き場のない怒りが湧き始めた時、働いている会社の健診で引っかかった。
病院で詳しく調べたらステージ四の膵臓癌と診断された。
他の臓器にも転移しているらしく、余命一年と宣告された。
会社は辞めて、すぐに入院した。
私の両親は早くに死んだ。兄妹も居ないし、近しい親戚も居ない。
私には何もなかった。彼氏も居ないし、仲のいい友人も居なかった。
生きる上での心の支えだった彼にも裏切られたし、私には生きる意欲がなかった。
徐々に衰弱していって、身体はやせ細り、抗癌剤の影響で髪は抜けた。
癌と分かって一年が経った頃には、人工呼吸器無しでは生きられなくなった。
意識も朦朧とする中、彼に裏切られた怒りだけが今も残っている。
私はファンに夢や希望、生きる活力を与えてくれるアイドルが好きだった。
彼はそんな私の理想のアイドルだった。
でも違った。
私の理想のアイドルなんてこの世にいなかった。
···なら、もし生まれ変わりというものがあるのなら、私はアイドルになりたい。
ファンを裏切らない、私の理想のアイドルに!!
そう思いながら私の意識は薄れていった。
······ここは? 暗いし、狭い。
ん? なんか足を引っ張られている?
うわ!? いきなり眩しい。でも目がぼやけていて明るいという事しか分からない。
誰かに抱っこされているのは分かるけど何で目が見えないんだ?
疑問に思っていると背中を強く叩かれる。
痛い!! 痛い!! 痛い!!
「おぎゃあああっ、おぎゃあああっ、おぎゃあああっ!!」
文句を言おうとしたら赤ちゃんみたいな泣き声が私の口から出た。
え? 私が戸惑っているうちに身体にお湯をかけられてタオルで包まれた。
え? もしかして?
次の言葉で私が想像していた事が現実となる。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」
やはり私は赤ちゃんになっている。
私は赤ちゃんに生まれ変わったのだ。
ただ今度は男の子として生まれたらしい。
母親らしき人が優しい声で、「お母さんですよ」と語りかけてきて優しく抱きしめてくれる。
眠気が襲ってきたけど、大声で泣く男性の声で起こされた。
「ありがとう、梨沙子ありがとう!!」
母親――梨沙子に泣きながらお礼を言う男性は恐らく父親なのだろう。
大声で話しかけてくるから煩わしい。
しかし、死ぬ前に生まれ変わる事を考えていたら本当に生まれ変わった。しかも前世の記憶付きで。
なら目指すしかないだろう。
私の理想のアイドルを!!
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