伝説の8人目勇者
葵彗星
第1話 七つの魔神石
「一体、どこなんだ?ここは……?」
目が覚めると、徳永祐樹は一人丘の上に立っていた。
周りは見渡す限り草木が生い茂っている。
自分が立っているのは小高い丘の上で、辺りには民家どころか人っ子一人いない。
遠くに山々が見えるが、そこまでの距離は計り知れず、まさに大自然のど真ん中にいる感じだ。
自分のアパートの寝室にいないことは確実だ。
そう確信した徳永だったが、場所がどうこうより、次に異変を感じたのは自分の体だ。
まず顎を触ってみると、無精ひげが完全になくなっている。それどころか肌が妙にツヤツヤしている。
それだけではなく、髪形もおかしい。
陰キャラ特有の長ったらしい黒い長髪だったのに、触ってみると頭の前後左右、しっかりショートヘアになっている。
髭は剃っていないし、もちろん散髪だってした記憶はない。
あと眼鏡もかけていない、裸眼の視力は悪いはずなのだが、遠くまでハッキリと見える。
なんとなく身長も伸びたような気もする。
さらに今度は自分の腹部を触ってみると、固い金属の板に触れたような感覚がした。
「な、なんだこれ…?」
腹部だけでなく、足、腕、腰回り、さらに肩にかけて、まるで古代西洋の騎士が着ていたかのような鎧に覆われている。
そして左腕には盾、腰の左側には鞘に刺さった剣がぶら下がっている。
鎧の色は全体的に赤褐色気味で、腹部には翼のような模様が描かれている。
もはや完全にナイトではないか?
「鏡とかないのかな?」
ここまで来るともはや見るまでもないとは思うが、念には念をと思って自分の顔を確かめようと決心し、丘を下ってさらに辺りを注意深く見渡してみた。
すると左手少し先に、まるで今の自分の考えを察知していたかのように小さな池があった。
徳永はこれ幸いと思い、そこの池に一目散に走っていき、即座に自分の顔を刮目した。
「や、やっぱり!」
予想はしていた。
いや、予想していたが、正直まさか自分がこうなるとは思いもよらなかった。
水面に映えていたのは、完全に別人の顔だった。
男の自分でもうっとりするくらいの美男子のような顔。
髪は日本人と同じ黒色で、ビシッとしたツーブロックスタイルだ。
確実に女性にモテると断言できるような、イケメン俳優顔負けのような顔だった。
「マジでありえないって、こんなの…」
未だにこれは何かの夢だろうと、半信半疑な気分で、何度も頬を引っ張ってみる。
が、目は覚めない。
これが夢なんかじゃないとしたら、一体今いる場所はどこなんだろうか?
そして自分の体は一体どうなったのだろうか?
仮に誰かと入れ替わったとしたら、一体誰の体なんだろうか?
「落ち着いて、今までのことを整理しようか。」
そう呟きつつ、立ったままだと思案を巡らすのも大変なので、胡坐をかいてついさっきまで自分が何をしていたのか、記憶を探ってみた。
まず家に帰ったのが午後7時頃だ。
仕事から帰宅後さっさと着替えて、いつも通りスーパーで買った惣菜のおかず、さとうのご飯をレンジでチンした。
冷蔵庫で冷やした第3のビールと一緒に夕食を済ませた後、風呂に入ってドライヤーをかけて髪を乾かし、その後ネットで何本か動画を見る、というほぼお決まりのルーティーンを終えた後、最近とある理由で始めたゲームをプレイしていたところまでは記憶があった。
そこまでの記憶を辿ったが、正直何も心当たりがなかった。
だが徳永が座って、ふと真上を見上げてみると、なにやら奇妙な雲でできた文字が浮かんでいた。
「な、なんだ…あれ?」
その文字はこう書かれていた。
「ようこそ七つの魔神石の世界へ!」
徳永もその文字を見てさすがに全てを察した。
「まさか、この世界(フィールド)って、『七つの魔神石』なのか?」
『七つの魔神石』とは徳永が最近はまっている、スマホで遊べるオープンワールド型RPGのゲームアプリだ。
株式会社ゼノ・スフィアが開発を行っているゲームで剣士や弓使い、魔法使いなど、様々なプレイヤーを画面上のパッドで操作し、ワールドの各大陸に散りばめられた「七つの魔神石」と呼ばれる巨大な石を破壊し、最後にラスボスの魔神を撃破するというのがこのゲームの大まかなストーリーとなっている。
これだけ聞くと、内容的にはすごくシンプルに聞こえる。
しかしそれも無理はない。
何しろこのゲーム自体は既に、20年近くも前に発売された同社のレトロゲームが原作となっている。
いわゆるリメイク版になるのだが、その頃よりも遥かに進化した映像と画質、美しい3Dで甦っており、しかもスマホで遊べるということもあって、レトロゲームファンを中心に注目を集めていた。
徳永も幼少期にこのゲームを遊んでいた記憶があることから、このゲームを最近とある理由でやり始めた。
寝る直前までプレイしていたという記憶が確かにあった。
それから酔いが回った影響もあって、眠りについたのだろう。
ということは、やっぱり夢の中なんだろうか?
しかしさっきあれほど頬を強く引っ張ってみたが、それでも目は覚めなかった。
ということは夢でもない。
仮に夢だとしたら、これほどリアリティ溢れる夢の世界というのは体験したこともない。
「自分が、『七つの魔神石』の世界に召喚されて、そのキャラクターに転移したってことか…?」
徳永はいまだに半信半疑な気持ちを抑えられないでいたが、難しく考えても仕方ない。
「もしゲームの中の世界にいるんだとしたら、存分に楽しめばいいじゃないか!そうだ、どうせゲームなんだし!」
徳永はこれ以上悩むのはやめて、楽観的に判断し行動することにした。
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