掴み所が無い上に、俺を小馬鹿にしてくる僕っ娘年上幼馴染を諦めた結果
あ
前編
「ゆうくん、起きなよ。もう朝だぞ」
体をぐらんぐらんと揺らされるにつれ、俺の意識も徐々に覚醒する。
鼻を抜ける甘い香り。今日も今日とて彼女が俺を起こしに押しかけてきたのだろう。
「おはよ」
神々しいまでに完成された笑顔を一つ落として、彼女は俺を見る。
「……明里か……おはよ」
「幼馴染がこうして起こしに来ないと起きられないなんて、君はどうにもお子様なんだね」
「そりゃどーも。……いつもありがとうな」
「僕は自分の家で待ってるから。早く準備しなよ?」
ドアを開けて部屋を出る明里。
颯爽と去っていった彼女を見ると、改めて思う。
可愛いよりもかっこいい。
本人に言うと変に傷つけてしまうかもしれないから口には出さないが、彼女を形容するにはこう表現する他無い。
髪型はショートカットでボーイッシュに整えられていて、女性としてはほんの少し低い声、さらには俗に言う僕っ娘である。
それでいて女性としての魅力も存分に備わっている。
時折見せる笑顔にはどの男も撃沈される事間違いなし。それは俺も例外ではなく、彼女と出会った幼稚園の時から現在の高校2年まで一途に彼女を想い続けてきた。
が。
「結局、今日も無しか」
1年前、彼女に告白をしてからというもの返事を先延ばしされ、今日に至るまで返事を貰うことが出来ていない。
返事を催促してもはぐらかされるばかり。それどころか"返事は自分からするから待っていてほしい"だなんて言われた日にはもう辛抱強く待つ以外の選択肢は無かった。
今日か今日かと身構え続けてもう1年。毎日家に起こしに来てくれる訳だからもしかすると俺の事が好きなんじゃないか、なんて希望に縋り続けてしまうのはいけない事だろうか。
「まあ、考えてもしょうがないよな」
残酷な1年という時間を見て見ぬふりをしながら、俺は布団を剥いで床を踏んだ。
====
その日の帰り道。今日の話題は専ら一週間に迫った定期試験である。
「今回も1位、いけそうなのか?」
「僕を誰だと思ってるのさ」
あたかも当然と言わんばかりに返事をしてきた彼女だが、それもおかしな話では無い。1年の最初の中間試験から前回の期末試験まで1度も学年1位の座から陥落したことが無いらしい彼女は、今回も相当な自信を持っているだろうし、なによりその自信に見合う努力をするのだろう。
「そっか」
「ゆうくんはどうなの?僕としては上から数えた方が早いぐらいは目指して欲しいけど」
「いや……まあ、頑張るよ」
「出来る範囲で頑張りな」
「そうだな」
いつも通り、他愛のない会話。
だが、今日の朝に考えてしまった事が脳裏に何度もチラついてしまう。
だからだろうか、俺は今まで越えられなかったはずの一歩を踏み出してしまった。
「……なぁ、明里はさ、最近好きな奴、出来たか?」
そう俺が言うと彼女は露骨に顔をニマニマし始めた。彼女の俺をいじるような視線を見た後に後悔してももう遅かった。
「へぇ、ゆうくんは僕が誰が好きなのか気になるの?」
「……いや、まあな」
「へぇ、そうなんだ……へぇ」
「……なんだよ」
いくら彼女のことが好きだと言っても、ここまで馬鹿にされるような笑みを浮かべられたら不満が溜まる。彼女が俺の気持ちを知っているという事実が尚更その思いを加速させた。
「いや、君は本当に可愛いなって思ってさ」
「もういいよ」
俺が馬鹿だった。1年間も返事を教えてくれなかった明里だ。事これに限って教えてくれるなんて、そんなことはないだろう。
「いいよ、教えてあげる」
心臓が、跳ねた。
「僕の好きな人はねぇ、とっても可愛い人だよ?」
じゃあね、と可愛らしい声を最後に彼女は家に入っていった。いつの間にか彼女の家の近くまで来ていたらしい。
対して俺はその場から動けなくなっていた。
「……それって、そういうこと、だよな?」
俺は柄にもなく舞い上がり、体が動かせるようになる頃にはガッツポーズを決めていた。
後になって、冷静に考えてみれば分かるはずだった。
明里は掴み所が無い上に、俺を小馬鹿にしてくる、そんな人間なんだと。
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細かい設定
・有李の両親は共働きで出勤が早い。(2人とも木曜と日曜が休み)そのためひとつ上でしっかりしている明里に有李の世話を頼んでいる。
・ずっと一緒に登下校している。有李が小6で明里が中1、中3と高1の時も、途中まで一緒に登校していた。
※中編は明日上げます。後編はまだ出来てないので出来るだけ早めに作ります。作れなかったらごめんなさい。
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