第68話 紫乃VS桜子

「北原機、大破!」

「やったあ!」


 さすが先輩です! さあ、私も頑張りますよ!

 私の機体は、重くて遅く、接近戦用の武器もありません。

 つまり肉薄されたら終わりです。



「だったら、肉薄させなければいいだけです! 食らいなさい!」


 12基のビットを射出し、桜子ちゃんを自動的に攻撃します。

 隙ができたら、重粒子砲で狙い撃ちです。


 桜子ちゃんの機体なら、胴体に直撃すれば、一撃で破壊できるはずです。



「――来ましたね!」


 さすがは桜子ちゃん! ビットの攻撃をうまくかわしながら、私に近付いてきます。

 ですが、そこで機雷の出番です。下手に近付いたら餌食になりますよ? うふふ。


「ああ、もう!」


 桜子ちゃんは機雷に気付き、旋回してしまいました。

 うーん、さすがです。簡単にはひっかかりませんか。




「お互い攻め手がありませんね……」


 この調子で、ずっと膠着状態が続いています。

 先輩からの援護射撃が欲しいところですが、ひまりちゃん相手に手一杯といった様子です。


「このままだと私が負けてしまいます。何か手を考えなければ……」


 桜子ちゃんの特大対艦刀は、何回でも使用することができますが、私の武器はすべて使用回数が設定されています。特に機雷は、もう残弾わずかです。


「そうだ……! あえて隙を作って、桜子ちゃんを誘い込んでやりましょう……!」


 そこを機雷と重粒子砲でドカンです!


 私は桜子ちゃんに感づかれないように、少しだけビットのコントロールを粗くしました。

 これで、飛び込みやすくなったはずです。



「――待ってましたよ!」


 早速、桜子ちゃんが突っ込んできました。

 彼女のルートは読んでいます。

 そこに機雷を設置するのではなく、直接ぶつけてやります。


 こいこいこいこい……! きた!

 機雷発射!


「――え!?」


 桜子ちゃんは読んでいたかのように、右に避けました。――マズいです!

 私は咄嗟に左手のシールドを構えます。


 特大対艦刀が振られました。


 ドゴォッ!

 シールド大破!

 左腕大破!

 胴体破損!


 やばかった……! シールドを構えていなかったら、真っ二つにされていました。


「強い……! さすがは桜子ちゃんです……!」



 私はこの人に負けたことがありません。


 勉強、運動、料理、お化粧、モテ度、すべて私の方が上です。

 でも不思議と、勝ったという実感がわかないのです。

 なんとなく、わざと負けているように見えたからでしょうか?


 でも今は違います。

 桜子ちゃんは、全力で先輩を止めに来ています。


 この桜子ちゃんに勝てば、私の方が上です!



 桜子ちゃんが、左手側から回り込んできます。

 武器の無い方から攻めようという訳です。まあ戦いの定石と言っていいでしょう。


 当然そこに向けて、私は機雷をばら撒きます。

 桜子ちゃんはこれを読んでいます。今度は私の背後に回りこんできました。


 ですが、私もそれは読んでいるのです。すでにそこには機雷が設置済みです。

 しかし、さすがは桜子ちゃん、これも見事にジャンプで避けてしまいます。



「――それも読んでいましたよ? だって姉妹ですから」


 桜子ちゃんは、空中に仕掛けられていた機雷に引っ掛かります。やりました!


「桜子機、右腕大破です!」

「よくやった紫乃!」


 桜子ちゃん怒ってます。

 もうガムシャラに突っ込んで来て、ブンブン刀を振り回して来ます。

「むー!」とほっぺをパンパンに膨らませているのが、容易に想像できますね。



「冷静さを失ったら負けですよ? 桜子ちゃん」


 私は狙いすました重粒子砲をぶっ放します。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ひらり。信じられないことに、桜子ちゃんはあっさりと避けました。

 まるで来ることが分かっていたかのようです。



「――私は女優なの。紫乃」


 そう言われた感じがしました。


 急いで距離をとらないと!

 後退しようとした私ですが、そこでミスを犯したことに気付きます。


 機雷が邪魔で動けない!

 なんてアホの子なのでしょう私は! 自分の仕掛けた機雷で、退路を塞いでしまいました!


「私の勝ち。いえい」


 そう言ってるかのように、桜子ちゃんが近づいてきます。


「桜子ちゃんに勝たせるつもりはありません!」


 さあこい! 勝負です!


 桜子ちゃんが剣を振りかぶりました。

 ――今です!


 私はビットで、周囲の機雷を攻撃しました。

 私と桜子ちゃんは爆発に巻き込まれます。


 お互いまだ生きていますが、爆発の衝撃で硬直しています。


「先輩! あとはお願いします!」


 私は透明パネルを叩き割り、自爆スイッチを押しました。


 紫乃機、リベルテ大破!

 桜子機、キルシュブリューテ大破!


 普通に引き付けて自爆するだけでは、逃げられてしまいます。

 機雷による硬直が発生していたから成功したのです。



「……引き分けですね、桜子ちゃん」


 あとは先輩の勝利を祈るのみです。



 ……でもちょっとだけ、ひまりちゃんを応援している私がいます。

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