第67話 激突

 敵の情報は以下のとおり。


 リーダー・瑠璃川桜子。

 搭乗機:キルシュブリューテ


 超軽量級の機体。装甲は薄いが、6機の中でもっとも運動性能が高い。

 武器は特大対艦刀のみ。



 エース・瑠璃川ひまり

 搭乗機:クーゲルシュライバー(ボールペン笑)


 おそらくカッコイイと思って、クーゲルシュライバーと名付けてしまったのだろう。カイザーシュニット(笑)と名前のセンスが同じだ。

 軽量タイプの機体。両手ショットガン、両肩ロケットの接近戦タイプだ。



 北原紗耶香

 搭乗機:マスタースナイペル


 中量級に、両手スナイパーライフルの、遠距離戦のスペシャリストだ。

 近距離でも当ててくるので、どこにいても注意が必要な嫌な敵である。



「紬! 紫乃! 先生とひまりが、北原の援護を受けながら突っ込んでくるはずだ! 俺を盾にしろ!」

「了解であります!」

「はい!」


 紬は中距離戦、紫乃は遠距離戦を得意とする機体構成なので、肉薄されると弱い。

 接近戦を得意とする俺が、2人を抑えるしかないだろう。



「来たぞ!」


 先生とひまりが連なって、全速力で接近してくる。


「死ねです!」

「落ちなさい!」


 紬と紫乃が射撃した瞬間、先生とひまりは左右に分かれ、回避した。


「ちっ、先生に抜かれた! 紫乃を狙っているぞ! 紬、援護だ! 俺はひまりを抑える!」

「お任せくださいです!」


 俺VSひまり、紬・紫乃VS先生の構図ができあがる。

 厄介なのは北原だ。どう援護してくるか?


 バズンッ! バズンッ! バシュシュシュシュシュッ!

 ひまりの弾幕を避けながら、大口径スナイパーライフルで反撃する。


 ズドォン! ――避けられたか。

 ひまりのやつ、ここまで動けるようになっているとはな。

 以前よりは劣るが、紬レベルはあると見ていいだろう。


「――が、その程度では俺の相手はできないぞ!」


 俺は弾幕の隙間を縫って、一気に近づく。

 そして対艦刀を構えたその瞬間、サイドモニターに北原が構えているのが映った。

 俺は咄嗟に逆噴射し、ブレーキをかける。

 すぐ目の前を弾丸がかすめた。


「やはりな。ひまりが完全でない以上、北原はひまりの援護に回るしかないだろう。紬、紫乃、チャンスだぞ! 2対1だ! 先生を潰せ!」

「了解でありますです! 死ね死ね死ね! うぴぴぴぴぴ!」

「桜子ちゃん、勝つのは私ですよ!」


 紬と紫乃が、先生に猛攻を仕掛ける。

 二人が先生を撃破してくれれば、こちらの勝利はほぼ確定だ。

 今のひまりは、それほどの脅威ではない。



「北原、ひまりのお守りに夢中になりすぎだぞ……」


 俺はひまりの射撃を避けながら、北原に狙いを定めた。


 ズドォン!

 北原の右腕が吹き飛ぶ。


「北原機、右腕大破!」

「さすが兄上!」

「やりましたね!」


 これで北原の援護射撃が弱まった。

 つまりそれは、ひまりの防御力が弱まるということでもある。


 俺は再度ひまりに突っ込み、対艦刀を振る。


 ザンッ! ――浅い……!

 胴体に当たりはしたが、浅かった。コックピットまで届いていない。


 来るはずだと思っていた、北原の攻撃が来なかったので、少し調子が狂ったのだ。


「と言うことは、北原は先生の援護に回ったのか」


 どうして急にターゲットを変えた?

 何か大きなチャンスが――


「ぴえん! 兄上ええええええ!」


 紬機アシェンブレーデルが、先生の特大対艦刀に貫かれ、大破した。


「紬! 何があった!?」

「正面カメラをジャミングされましたです!」


 ジャミングだと……!? いったい誰に!?


 カメラをジャミングして視覚を奪うことは、極めて有効な戦い方ではあるのだが、高い計算力を必要とする、特殊な操作が必要とされる。

 しかも、みんなジャミング対策として、対電子防御の高いCPUを積んでいるので、1台ジャミングするには、最低でも10秒以上かかるのだ。

 それだけの長時間、機体操作とジャミングを同時におこなうなど不可能に近い。


【クッキー・マジシャンズ】で一番操作量が少ないのは北原だが、あの位置から紬をジャミングすることはできない。完全に射程外だ。


 ――となれば……。


「ひまりか……」


 いまいちキレのない動きは、ジャミングを同時におこなっているからだったのだ。


 そう、俺はひまりの計算力の高さを知っている。

 家庭教師の時に、それを散々見ていた。

 あいつは馬鹿なんじゃなくて、ただの勉強嫌いなんだ。



「やるな、ひまり! だが並行処理は俺も得意なんだぜ!」


 俺はひまりに突っ込み、対艦刀を振り下ろす。

 それと同時に、北原に向けて大口径スナイパーライフルをぶっ放す。


 胴体にヒット!


 ひまりが俺の追撃を止めようと、猛攻を仕掛けてくる。

 これまでと、まるで勢いが違う。どうやら、ようやくジャミングをやめたようだ。



「これはきついな……!」


 北原にも撃たれ、回避するので手一杯だ。


「先輩! 任せてください!」


 紫乃の重粒子砲が、北原に発射された。

 この隙にひまりを……というのは芸がない。


 俺は重粒子砲の後を追うように、全速力で北原に接近する。


 ――どうだ! 俺がどこにいるか見えているか、北原!


 重粒子砲のエネルギー波はかなり太く大きい。良い遮蔽物になるのだ。


「いただきだ!」


 ザンッ!

 北原機・マスタースナイペル撃破!

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