第41話 東西王者決定戦

 俺達は再びクルーザーの船室に戻り、番長会議を始める。


「皆も知っての通り、先日、我等が関東番長五人衆の一人、三丈高校の馬場が西の奴等に病院送りにされた!」


 そうか、4人しかいなかったのは、1人入院していたからなのか。

 というか、話の内容がえらくキナ臭いな……大丈夫かこれ?


「関西の番長たちとは停戦協定を結んでいたのに、奴らはこれを破りおった! 断じて許されぬ行為じゃあ! 今すぐ報復をおこわねばならん!」


 極悪院先輩はドンッ! とテーブルを叩く。

 やべえ……このままいくと、多分報復に参加させられそう。


「うむ! では早速、全軍をもって大阪へ斬り込みにいくでござる!」

「待たれよにんにん! 東と西が全面戦争を始めれば、世の混乱は必至! それは避けるべきでにん!」


 いいぞ、服部先輩! なんとか抗争を避けてくれ!


「なんじゃと服部! では、このまま黙ってろというのかおどれは!」

「そうは言ってないにんにん! 全軍での戦闘は控えるよう言っているのだにん!」

「つまり服部さんは、西の番長だけを仕留めるって言ってんすね?」


「そういうことだにん! 拙者、闇討ちは得意だにん!」


 忍者だからな。だが、そううまくいくだろうか?



「――颯真、なにか意見はあるかいのお?」

「仮に闇討ちがうまくいったとしても、東の番長たちの犯行であることは、すぐに判明してしまうでしょう。そうなれば、結局西との全面戦争は避けられないのでは?」

「にんにん……確かにそうかもしれないにん……」


 よし、いい感じだ。このまま平和路線を目指そう。


「ここは一つ、東の代表と西の代表で――」

「なるほど! さすが颯真じゃわい!」


 え? まだ俺、言い終わってないんですけど?


「つまり東と西5人の代表が戦い、勝敗をつけるということじゃな! 名案じゃあああああ!」

「うむ、それならば全面戦争を避けつつ、馬場の仇も討てる。やるな八神」

「正面から堂々とねじ伏せてやれば、西の者どもも二度と逆らわないにん!」

「一番スマートなやり方だな。のったぜ」


「いえ、そうではなく、代表者で話し合いを――」

「よし! では早速西の連中に、文を送るとするかのう!」


 駄目だ! まったく俺の話を聞いてねえ!


「ちょっと待ってください! その戦いには俺でなく、馬場さんが出るんですよね?」

「がはははは! 心配するな颯真! 馬場の退院はまだ先じゃあ! ヌシが参戦できるぞ!」



[1、東西王座決定戦に参加する]

「2、東西王座決定戦に参戦する」



 ちくしょおおおおおおおお!


 こうして、東と西の番長5名による、東西王座決定戦が開催されることとなった。





 5日後。

 とある廃工場に10人の男が集った。


「おう、鎌田ぁ! よくもやってくれたのう!」

「はははは! 馬場の奴、弱かったでえ! あれで五人衆とは、東はザコしかおらんのやな!」


 極悪院先輩とガンを付け合っているのは、セーラー服を着た、ポニーテールの可愛い子ちゃんだ。

 身長は170cmくらいだろうか? 先輩とは比較にならないほどの対格差がある。


 奴の名は、鎌田憲司かまたけんじ。れっきとした男である。いわゆる男の娘というやつだ。西のトップは、この男である。


 東の番長五人衆は、全員平等の立場だが、西は違う。

 総番長の鎌田が、他の番長を率いるというワントップの組織なのだ。



 鎌田がチラリと俺を見る。


「――え? 颯真ちゃん? 颯真ちゃんや!」


 やはりそうだったか……名前が同じだから、そうではないかと思ってはいたが……。


 俺はこいつを知っている。


 鎌田憲司は小学校の時の幼馴染だ。

 奴は貧乏で根暗な性格だったので、クラスの連中からイジメられ、よく泣かされていた。

 同じような嫌がらせを受けても平然としている俺に、「颯真ちゃんは、どうしてそんなに強いの?」と、しょっちゅう聞いてきたのを憶えている。



「憲司、久しぶりだな……一体、お前に何があったんだ?」


 随分と可愛くなってしまって……正直うちのクラスの女子達よりも上だろう。


 中学校に上がる時、憲司は兵庫県に引っ越した。

 母親が別の男と逃げた後、父親もどこかへと蒸発してしまったのだ。

 そのため、親戚の家に引き取られたと聞いている。


「まあ、色々とな! ……しっかし、残念やわ。颯真ちゃんが、こんなしょうもない奴等とつるんどるなんて。なんか腹立ってきたわ」


 憲司が俺を睨む。凄い迫力だ。

 こいつは、ケンカなどできるような性格ではなかった。殴られているところしか見たことがない。

 たった5年で、ここまで人は変わってしまうものなのだろうか。



「鎌田ぁ! そこまでにせんかい!」

「じゃかあしい! いてまうぞコラ! 今、俺と颯真ちゃんが話しとんねん!」


 憲司は先輩に中指を立てる。


「颯真ちゃん、学級裁判のこと憶えとるか? 給食費がなくなったってやつや」

「ああ、憶えてるよ」


 嘘ではない。本当にはっきりと憶えている。

 憲司が犯人にされた事件だ。


「そっか……俺、颯真ちゃん超えたねん。見といてや……」


 そう言うと、憲司は西組の元へと戻って行った。




「もう一度確認しておくけんのう! ルールは5対5の勝ち抜き戦! 大将を討ち取った方の勝利じゃあ!」

「つうことは俺の出番ないやん! なあ石田!」

「ほんまですわ総番! わし一人で、5人抜きしてしまいますさかい! わははは!」

「ぬふふ……西の人間は、威勢だけは良いでござるのう……」

「これは楽しみでにんにん……」


 俺以外の全員が、互いにバチバチと火花を散らす。

 戦う順番は以下の通りだ。



 関東番長代表


 先鋒:鷹飼飛鳥

 次鋒:服部全蔵

 中堅:寺田一刀斎

 副将:極悪院真雪

 大将:八神颯真


 俺が大将なのは、順番を決めるジャンケンに勝ったからだ。

 他の4人だけで勝利してくれれば、俺は1戦も戦わずに済む。そりゃ当然、大将を選ぶ。



 関西番長代表


 先鋒:石田

 次鋒:パク

 中堅:珍

 副将:ボブ

 大将:鎌田



 関西の番長、日本人が2人しかいねえ……。


 あいつらは本当に番長なのか?

 ボブは身長2mを超える巨体の黒人なのだが、日本語がまったく喋れない。

 番長として、組織をまとめることは不可能だろう。この日のためだけに集められた格闘家なのではないか?。


「くくく……パクはテコンドー、珍は中国拳法、ボブはレスリングの有望株。本日だけの一日番長だそうでござる」


 やはりそうだったか。

 汚いやり方に俺は腹が立ったが、他の4人は余裕の笑みを浮かべている。


「にひひ! 西のアホどもは、小賢しいでにんにん!」

「何をやっても無駄だってこと、俺が見せてやりやすよ」

「おう、鷹飼! 東の強さ、見せてこいや!」


 鷹飼は中央に進み、西方の石田と対峙する。



「では1回戦! 東方鷹飼、西方石田! 始め!」


 見届け人と呼ばれる、どこかの誰かの号令で、戦いの火蓋が今切って落とされた。

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