第42話 激闘

 戦いは圧倒的だった。


 初戦石田はハイキック。

 次鋒パクは、後ろ回し蹴りからのバックハンドブロウ。

 中堅珍はエルボー。

 副将ボブは、タックルに来たところをヒザ蹴り。


 どれも一発KO。鷹飼はあっさりと4人抜きした。すげえ……!

 よくこんな奴の顔面殴れたな俺……。



「がはははは! どうじゃ鎌田! これが関東番長の実力じゃあ! ルールの中でしか戦えん格闘家など、相手にならんわ!」

「おおー、やるやん。見直したわ。これならちょっとは楽しめそうや」


 憲司が鷹飼の前へとやって来る。

 頼むぞ鷹飼! あっさり勝利して、俺を安心させてくれ! 牛丼奢るから!



「5回戦! 東方鷹飼、西方鎌田! 初め!」


 憲司が素早いステップで、鷹飼に距離を詰める。

 あの重心が前に乗った構え……あいつもボクサーか?


 鷹飼も一瞬でそう判断したようだ。

 ボクサーの弱点である足を狙い、ローキックを放つ。


 ――が、憲司は信じられないくらいの速さで右に回り込むように避け、それと同時にフックを放った。


 鷹飼が倒れる。

 見事なカウンターだ。


「勝者鎌田! 東組の次鋒、前へ!」




 そこから先は、これまでの流れと真逆だった。

 次鋒の服部先輩は、つかみにかかる瞬間にストレートを打たれ撃沈。


 中堅の寺田先輩は木刀を使うので、素手の憲司に圧倒的有利だったはずなのだが、最初の一太刀をかわされ、ワンツーの反撃を食らってノックアウトとなる。


 そして、ついに副将の極悪院先輩が戦うこととなってしまう。



「やるのう鎌田! 久しぶりに、本気が出せそうじゃわい!」

「そう簡単にくたばるんやないぞ、デカブツ? 俺を楽しませるんやで」


 憲司は狂気じみた笑みを見せる。

 あの大人しくて弱々しい少年が、こんな狂暴な男になってしまったとは……。

 一体誰が、こいつをそんな風にさせてしまったのか。


 それはともかくとして、極悪院先輩、絶対勝ってください!



「8回戦! 東方・極悪院、西方・鎌田! 初め!」


 極悪院先輩は大振りのパンチを構える。


 先輩は格闘技を習っていない。必要ないと思っているからだ。

「虎や獅子が、強くなるために修業などしとるかいの?」

 その言葉を聞いた時、真の強者とはこういう男のことを言うのだと思った。


「うぉらっ!」


 先輩のパンチは避けられる。

 憲司は先輩の顔面にジャブを入れ、すぐさまボディに一発入れた。――まずい!


「――お、やるのう! まったく見えんかったわい! がはははは!」

「……ほんま、化け物やん」


 憲司の表情に、若干の焦りが見える。

 俺には完全にレバーに入ったように見えたが、先輩は平然と立っていた。


「本当に強い男は、内臓も神経も強いんじゃ!」

「じゃかあしい! ほなら何発でも打ち込んだるわ!」


 先輩のデタラメなパンチの連打を、恐ろしく鮮やかなフットワークでかわしながら、憲司は急所を狙った一撃をお見舞いしていく。


 だが先輩は倒れない。


「がはははは! 結構痛いのう! 血がたぎってきたわい!」

「こいつ、ホンマ人間か……?」


 先輩は制服の上着を脱ぐ。右肩から出血していた。

 どうやら、銃で撃たれた傷が開いてしまったようだ。


 極悪院先輩、完全な状態ではないのか……だが、あの程度の傷であれば何も問題はないはず。


「よっしゃあ! 次で仕留めてやるけんのう!」


 先輩は右拳をぐっと握りしめ、超大振りの構えをとる。

 正気か? あんなパンチが憲司に当たるとは思えないが?


「おもろいやんけ……受けて立ったるわ」


 憲司はステップを踏み込み、自ら先輩の懐へと飛び込んだ。


 凄い度胸だ。俺にはとても真似できない。


 先輩の喧嘩パンチと、憲司の右ストレートがクロスする。



 先輩のパンチは憲司の頬をかすり、憲司のストレートは先輩のアゴを撃ちぬく。完全にクロスカウンターが決まった。


 ――が、先輩はまだ立っている。



「最後まで見事やったわ……極悪院、お前、ほんまの漢やで……」


 憲司はくるりと身をひるがえし、水分を補給しに戻った。


「先輩……?」


 俺は極悪院先輩に近付いた。――なんだと!? 目を開け、立ったまま気を失っている!?


 たとえ敗北したとしても、決して倒れはしない。まさに真の漢である。



「ほんまはギリギリだったんやろ。最後の一発に賭けるしかなかったんちゃうん?」


 そうか……憲司のパンチはガッツリ効いていたのか。

 それをおくびにも出さないとは、さすが先輩。


「右肩の傷がなかったら、負けてたのは俺かもしれへん」


 かなりギリギリでの勝利だったということか。

 なおさら、先輩が完全状態ではなかったことが悔やまれる。




「東組の大将、中央へ!」


 俺は憲司と対峙する。


「まさか颯真ちゃんと、やり合う日が来るとは思てなかたわ……」

「俺もだ。……憲司、お前を殴りたくない。ここは引き分けって訳にはいかないか?」


「颯真ちゃん、ほんま情けない男になったなあ。がっかりやわ……本気でかかってこんかい!」



[1、全力で鎌田と戦う]

[2、「憲司、よく頑張ったな」鎌田を抱きしめる]



 え? 2ってどういうこと?

 もしかして2を選べば、戦いを回避できたりする?



「……分かった。じゃあ遠慮なくいかせてもらうとしよう」


 俺は1を選んだ。

 それが憲司に対して、一番誠実な対応だと思ったからだ。




「9回戦! 東方・八神、西方・鎌田! 初め!」


 俺達は互いに1歩踏み込んだ。

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