第26話 ニュータイプ

「先輩……絶対に手、離さないでくださいね……?」


 紫乃はギュッと俺の手を握る。


「いや……なに、か弱い振りしてるんだ? お前、そんなタマじゃないだろ?」

「と、当然です……」


 紫乃はビクビクと、しきりに周囲を見回す。

 あれ? こいつ、マジでビビってんのか?


 俺は首をかしげながら、紫乃の手を引いて先へと進む。



「恨めしやあああああああああ!」


 ザ・お化けといった感じの人が飛び出してきた。

 頭に付けた三角の布を見て、なんだか安心感すら覚える。


「きゃああああああああああああああああ!」


 紫乃は大絶叫して、俺に抱きついた。


「お、おい! 紫乃!」

「もう嫌ああああああああああ! お外、出たいいいいいいいいいい!」


「ははははは! お前、マジで泣いてんのかよ! 普段の威勢のよさはどうした!? ははははは!」

「うるさいうるさいうるさーい!」


 紫乃は目に涙を浮かべながら、べったりと俺にくっついて離れない。

 なんだか急に可愛く思えてきたぞ。


 その後も俺は、紫乃のリアクションに大笑いしながら、お化け屋敷を満喫した。

 オバケのバイトの人達も、きっと大満足してくれただろう。



「笑い過ぎです先輩!」

「すまんすまん。でもお前に、あんな可愛いところがあるとは思わなかったな」


「え、あ、そ、そうですか……?」


 紫乃は前髪をいじりだし、押し黙ってしまった。


 その後も俺達は、乗り物に乗って銃を撃つアトラクションや、レールの上を漕いで走る乗り物を楽しみ、ゲームセンターに入る。



「先輩先輩! あれ取って下さい!」


 紫乃が指差したのは、クレーンゲーム内のぬいぐるみだ。

 頭はインコ、首から下は全裸のガチムチボディという、キモさが半端ないキャラである。武神という名前らしい。


「……お前の趣味相当悪いぞ?」

「いいからいいから!」



[1、武神を手に入れる]

[2、「俺が武神の代わりになってやる」全裸になり、ダブルバイセップスのポーズをとる]



 マジかよ……! これ下手すると、相当額を失うぞ!


 俺は全神経を集中させ、クレーンを操作する。

 クレーンは上手く武神の首にひっかかり、穴の上まで運んできた。


 ガコンッ! 武神が取り出し口に落ちる。


「すごいです先輩! 一発で取っちゃうなんて、マジキモすぎます!」

「いや、ちゃんと褒めろよ」


 まあ何はともあれ、100円で取れたのは良かった。

 最悪数万失うことも覚悟していたのだから。



「――お? 【黒鉄の武士】ここにも置いてあるんだな」

「ああ、リビングに置いてあるやつですね。面白いんですかこれ?」


「ああ、学校をサボろうかと思うくらいにな。――やってみるか?」

「はい! ぜひ!」


 紫乃が乗ってくるとは思わなかった。

 ゲームやゲーマーを、毛嫌いしているかと思っていたんだが。


 俺は紫乃に、機体を動かすだけの基本中の基本の操作を教える。



「――そしたら、初回は自分の機体をセットアップする。よく分からないだろうからデフォルトのものでいいぞ。バランス型になっているからな」

「いえ、自分でカスタマイズしたいです」


 マジか!? こいつ、ゲーマーの素質あるぞ!

 俺は猛烈にテンションが上がり、武器やパーツの解説を始める。



「――じゃあ、これでいきます!」

「かなり面白い機体構成だな。正直かなり俺好みだ」


 紫乃は重量級の機体をチョイスし、背部にビット射出ユニット、右手に特大の重粒子砲、左手にシールド、両腰に機雷射出機を装備した。

 機動力を完全に捨て、耐久と火力に特化した構成となっている。


 敵がビットに気をとられている隙に重粒子砲で攻撃し、万が一突っ込んで来られたら機雷で仕留めるという、どう見ても初心者が選ぶようなスタイルではない。

 そのトガり具合に、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。



「よし、さっそく対戦してみよう」

「はい! 楽しみです!」


 俺は紫乃の隣の筐体に座り、自分のデータが入ったカードを差し込む。

 タッチパネルを操作し、オンライン対戦の3VS3デスマッチを選択した。


 俺と紫乃、そして野良の1人が同じチームとなる。

 相手は、中の中から中の下くらいのレベルだ。

 俺が上手くフォローすれば、すぐに撃墜されることはないだろう。

 なるべく彼女が楽しめるように立ち回りたい。1人でも多くファンを増やしたいからだ。


「紫乃、前には出るなよ。狙い撃ちされるぞ」

「はい! 先輩の援護をしますね!」


 試合が始まった。


 味方の野良が、ミサイルで弾幕を張りながら、敵に急接近する。

 刀での戦いに持ち込むつもりなのだろう。


 作戦自体は決して悪くない。

 だが、純粋に腕が不足している。


 弾幕の張り方が雑で、ルートも単調だ。

 野良は集中砲火を浴び、あっさり破壊された。


「え!? あの人、もうやられちゃったんですか! よわっ!」

「やれやれ、困ったもんだな。あの野良にお手本を見せてやる」


 俺は大口径スナイパーライフルで敵の武器を狙う。

 これを嫌がった敵は、一気に距離を詰めてきた。


 スナイパーライフルは威力が高く、射程も長いが、ロックオンに時間が掛かり、発射レートも低い。

 そのため、肉薄されると、ほぼ無力化されてしまう。


「――が、それはあくまで一般論だ」


 俺は一体を対艦刀で真っ二つにし、スナイパーライフルで真横に居たもう一体のコックピットを貫いた。


「俺はロックしなくても、当てられる」


 超至近距離での大口径スナイパーライフルは、中量級までのコックピットを一撃で破壊できる。

 俺は近距離から遠距離までを、スナイパーライフル一本でこなせるのだ。


「さて、もう一体――」

「先輩、やりました!」



 画面に表示される「勝利」の文字。

 紫乃は、全武器による一斉射撃で一体を仕留めていた。




 ゲームセンターから出ると、辺りはすでに暗くなっていた。

 紫乃がハマってしまい、あの後も対戦を繰り返したのだ。信者が増えて喜ばしい限りである。


「まさかお前が、あそこまでやれるとは思わなかったな」

「うふふっ! ゲームって楽しいですね! ――あ、先輩! もう夜ですし、あれに乗りましょう!」


「観覧車か……よし、行くか!」

「はい!」


 デートの定番アトラクションである。

 俺は偽物のデートであることを忘れ、ノリノリで列に並んだ。


 ――が、そこで、自分はあくまで練習台であることを思い出させられる。



「え? 八神君? それに紫乃さんも?」

「一条!?」

「一条先輩!?」


 信じられないことに、爽やかイケメン一条が俺達の前に並んでいた。


「誰そいつ?」

「D組の八神じゃね?」

「その子って、桜子先生とひまりの妹よね?」

「あー、サッカー部のマネージャーだっけ?」


 一条は他のクラスの男子2人と、女子2人、合計5人で遊びに来ているようだ。

 リア充とは、本当にこういう遊び方をするもんなんだな。腹立たしい。



「君達って付き合ってたんだね」



[1、「おうよ! 自慢の彼女だぜ!」]

[2、「ははは、こいつはただの情婦だ」]

[3、「いや、とあるイベントの下見に来ただけだ」]



 おー、珍しく気の利いたセリフが用意されているじゃないか。


「いや、とあるイベントの下見に来ただけだ」


 この答えなら、紫乃も大満足だろう。

 そう思い、彼女の表情を見たが、悲しそうな目をしている。なぜだ?


「そうなんだ。でも2人が知り合いだったことに驚きだよ」


 みんなは、俺が瑠璃川家にお世話になっていることを知らない。

 知られると色々と面倒なので、秘密にしているのだ。



「次のお客様、どうぞー」


 そうこうしているうちに順番がやってきた。


「じゃあ俺達からいかせてもらうわー」

「うーい」


 他のクラスの男女がペアとなって乗り込む。


「次のお客様ー」

「一条、先にいってるぜー」

「おっけー」


 もう一組の男女がゴンドラに乗り込んだ。

 まさかの一条がボッチ。予想外の展開に俺は驚く。


 ……ん? 待てよ。

 そうか、一条と紫乃が一緒に乗るのか。ボッチはいつもどおり俺だわ。


「次のお客様、どうぞー」

「はい」


 一条がゴンドラに乗り込む。


 ……が、紫乃は動かない。まさか緊張しているのか?


「おい紫乃? せっかくのチャンスだぞ?」

「……そうですね」


「乗れよ? なんのために練習したんだ」

「……そうですね」


「そうですねってお前――」


 ガララッ。

 一条が乗ったゴンドラが閉まってしまった。


「あーあ、何やってんだよお前……案外度胸ないのな……」


 紫乃は無言でじっとしている。――やべ、怒らせたか?



「次のお客様どうぞー」

「……じゃあいくか紫乃?」

「はい!」


 俺達は向かい合わせでゴンドラに乗った。


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八神兄妹と瑠璃川三姉妹の秘密⑥ 名前編


瑠璃川三姉妹の名前は、花からとっています。


桜子 :桜

ひまり:ひまわり

紫乃 :紫陽花

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