第23話 大人のキス

「――え、本当にこのままでいいのか?」


 俺は先生を揺する。


「先生、起きてください。寝るなら、ちゃんとベッドで寝ましょう」

「んー……? 無理……起きれない」


 先生は寝に入ってしまった。


「ちょっと、先生!」


 間違いない。この女、最強クラスのダメ女だ。

 俺は激しく先生を揺する。


「先生! 先生!」

「むー! じゃあベッドまで運べよ!」


 うわ……めちゃくちゃ怒ってる……。

 なるほど。こんな感じじゃ、そりゃ妹達も放置するわな。



[1、桜子を抱っこし、ベッドまで運ぶ]

[2、桜子に目覚めのキスをする]



 ……やれやれ、運ぶはめになったか。


「じゃあ先生、いきますよ?」

「うい」


 俺は先生をお姫様抱っこし、部屋の前まで運ぶ。

 足で扉を開け、中に入った。


「相変わらず、きったねえなあ……どう見ても、ゴリラが暴れた後だろこれ……」

「殺すぞ」


 俺は足の踏み場を探しながら、すっかり口が悪くなってしまった先生を抱え、ベッドの前まで移動する。


「わお……!」


 ベッドの上には先生の下着が散乱している。

 すっげえ! 先生、こんなのつけてんだ! 小っちゃいけど、やっぱり大人の女なんだなー。


 俺はうんうんと満足気にうなずくと、ゆっくりと先生を下ろした。


「では先生、おやすみなさい」


 俺はブラジャーを手に取り、Eカップであることを確かめてから、部屋を立ち去ろうとする。

 決して先生にいやらしい真似などしない。俺はなんという紳士なのだろうか。自分でも惚れ惚れしてしまう。


「おい颯真、おやすみのチューしろよ」

「……え?」



[1、桜子におやすみのキスをする]

[2、「黙ってろ酔っ払い!」桜子に本気のビンタ]



 な、なんですと!? 先生を殴れる訳がない!

 と言うことは、童貞のこの俺に、自らキスしろとおっしゃるのか!?

 そんなこと、竹槍でB29を落とせと言われているのと一緒だ! ムリムリ!


 いや……手にだったら何とかいけるか……? 挨拶みたいなもんだし。――よし、いくぞ!


 その瞬間、選択肢が書き換えられた。



[1、桜子におやすみのキスをする(唇に)]

[2、「黙ってろ酔っ払い!」桜子に本気のビンタ]



 そんなのありかよ!

 マウストゥーマウスだと!? とてもじゃないが、俺には不可能だ!


 ……だがやらなければ、もっと大きな隕石が落ちてきて、街ごと吹き飛ぶ恐れがある。

 この街を守るためにも、ここは覚悟を決めていくしかない。


「では先生、八神颯真いかせていただきます!」

「おう」


 俺のファーストキスは桜子先生になるのか。正直、理想的過ぎる相手だ。俺は運がいいのか悪いのか、よく分からなくなってきた。

 唯一悔やまれるのはこのシチュエーション。

 もっとロマンティックなのが良かったぜ。恋愛などに興味ないと断言していた俺だが、結構乙女だったようだ。


 つうか、本当にしちゃっていいのだろうか? 先生は酔ってるだけで、本気じゃない。これじゃ、準強制わいせつ罪になるぞ。


「早くしろって」

「分かってますって……!」


 クソ! 迷うな! 街の平和が俺にかかっているんだ!

 俺は先生のアゴに手を添え、唇を近づける。


 ――が、そこからピクリとも動けなくなってしまう。これも童貞の未熟さゆえか……!


「むむむ……!」

「……ん? したくないの?」


 そんなことはないのだが、やはりビビってしまう。

 古賀や不良どもと戦うよりも、はるかに度胸が試される。


「そっか……ごめんね……颯真は私のこと、嫌いなんだ……」


 先生が悲しそうな顔をする。それが俺のやる気スイッチを入れた。


「そんなことないです……!」


 俺は先生と軽く唇を重ねる。

 よし! やった! やったぞ! さすがは八神颯真! お前こそ、まさに真の漢だ!



「え……? 八神君……?」


 先生が目をパチクリさせる。本当にされるとは思っていなかったのだろう。

 だが今さら文句を言われる筋合いはない。誘ったのはそちらなのだ。


 しかし、せっかくのファーストキスだというのに、正直唇の感触とかには、まったく意識がいっていなかった。なんだかもったいない。



「では先生、俺はもう部屋に戻ります――って、ちょっと!?」


 俺が立ち上がろうとすると、先生が腕をつかんできた。


「……これだから童貞は困る。キスは5秒以上かけろ。やりなおし」


 ――な!? マ、マズい! そういうこと言うと、また……ああ、出てきやがった!



[1、桜子とキス(5秒以上。大人のキスで)]

[2、「酔った振りしてんじゃねえ! この淫乱が!」桜子を本気でビンタ]



 嘘だろ!? ご、5秒だと!? それも大人のキス!? 童貞のこの俺に!?

 そんなもの、三輪車で月まで行けと言っているようなものだぞ!

 ……だが、いくしかないのだ! さらなる男を見せろ! 八神颯真! お前ならできる!


「よっしゃ! いきますよ!」

「ん……起こして……座ってしたい」


 え、なにそれ……? すごくいやらしい響き……。


 俺は先生の背中と頭に手を入れ、抱き起こす。

 そして隣に座り、顔をこちらに向けさせた。

 先生が目を瞑る。


「ん……」


 唇が重なると、先生が俺を抱きしめてきた。

 これだけでも、もう俺は限界に近い。

 だが、次のステップに進まねばならないのだ。


 さて、どうする?

 むりやり舌でこじ開けるようなやり方が駄目なのは、俺でも想像がつく。


 俺が少し口を開けると、先生が目を開けた。

 じっと俺を見つめながら、少しづつ口を開いていく。――良かった。これで強引な真似をしなくて済む。


 ぎこちなく次の段階へと移行する。先生の目が見開かれた。

 初めは少し抵抗されたが、すぐに受け入れてくれる。酔っているせいなのだろうが、それでも嬉しい。


 大人のキスの音が、静かな部屋に鳴り響く。

 5秒がとてつもなく長い。



 5秒以上確実に経過したので、俺は唇を離した。

 先生の唇から、唾液が糸のように伸びる。


 彼女はそれを指で拭うと、俺を見て妖艶な笑みを浮かべる。

 その表情と仕草たるや、普段の先生からは想像できないほどの淫靡さを醸し出している。これはマジでヤバい!


「で、ではもう行きますね……! おやすみなさい!」

「ん……行っちゃうの……?」


 今の先生の近くに居るのは危険すぎる! さっさと脱出しよう!


 俺は慌てて、先生の部屋を後にした。


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 桜子のセリフに注目してみて下さい。

 彼女の印象がだいぶ変わると思います。

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