あれ?貝殻のブラしてなかったっけ?

第2話

 ジリリリリリリリリリリリリッ!!!!!

登校していた時から惰性でかけている目覚まし時計。だけど、これのおかげで堕落した生活になってはおらず早寝早起きを徹底できている。それに、人魚のテトラと毎日会おうと約束をした。早く会いたい。

「あら、有理紗。元気じゃない。学校へ行く気になったの? 昨日もあれから学校へ行っていたの?」

「違う。でも、友達に会っていた」

「そのお友達って悪いお友達じゃないでしょうね」

「違う。あたしと同じで独りぼっちなの。だから、あたしが会いに行かなきゃ」

「そう、どこのお友達か知らないけど、危ない事に首を突っ込まないこと。約束してね。そして、帰りは遅くならないこと。有理紗が外に出てくれるようになって嬉しいわ」

「……ありがとう。お母さん」

学校へ行きなさいしか言わないから、てっきり怒られるかと思った。流石に、人魚に会いに行くとは言えなかったけど、それでも学校ではない友人に会いに行くことに理解を示してくれるとは。あたしとお母さんとのわだかまりは少しなくなった気がした。この調子で学校にも行けるようになれれば良いが、正直、テトラとずっと歌を歌っていたい。友人は気になる子とかいるが、今更、和に入るのが気が引ける。それなら、気を許せるテトラとずっと過ごしている方が楽で良い。

今日は、楽器も使ってみようかな。リコーダーをとりあえず持った。家にある楽器は、これと小学生の時に使っていた鍵盤ハーモニカしかない。

「弁当持って行きなさい。さっきも言ったけど、帰りは遅くならないこと。行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます!」


 リュックに、音楽の教科書、リコーダー、お母さんからのお弁当、水筒を詰めて、海へ向かう。昨日は近所の目線が怖かったが、今では確かな足取りで歩めている。テトラのおかげだ。今日は何を歌おう。ハマっているアニメソングがあるんだけど、それの主題歌でも歌おうか。

「~♫」

テトラを呼ぶ為に、歌を歌う。

ザバーンッ

「~♫」

ユニゾンで最後まで歌う。

「おはよう、テトラ!」

「おはよう、有理紗」

「!!」

「……? どうしたの有理紗。驚いた顔して」

昨日は久しぶりの再会に浮かれて気づいていなかったけど、テトラの胸元……

「ねぇ、テトラ、貝殻のブラしてなかったっけ?」

「あぁ、小さくなったからしなくなっちゃった。だって、誰も見ないもん。恥ずかしくないし。この長い髪だって胸元隠してくれるし」

「いやいやいやいや、あたし、昨日気付かなくてごめんね! それ、昔みたいに貝殻のブラした方が良いよ。人間の特に男の人に見つかったら大変な目にあっちゃうよ」

「そう……有理紗がそう言うなら……。探して明日にはつけておくね。大変な目にあって有理紗を心配させたくないし」

「そうして、そうして。あたしの目のやり場にも困るし!! 昨日気付かなかったのが不思議なくらい!!」

「そんなに大変なことなんだ。胸出していることが……」

「大変なことだよぉ!! 将来はそこから赤ちゃんに授乳するんだし!!」

「人魚もするのかなぁ?」

「あ、それはわからないけど!! とにかく女の簡単に見られてはいけない場所だよ!!」

「よーく、わかった。ほら、音楽の時間を始めましょう?」

「うん、あやうく、保健体育の時間に突入するところだったよ。今日はテトラのリクエストにお応えして、楽器持ってきたよ。歌ってから楽器も吹こう」

「やったー!! 楽器ってどんなものかしら気になる」

「じゃあ、今日も新しい曲を歌おう。今日はあたしの好きなアニメのアニメソングを歌おう」

「アニメって何?」

「アニメって言うのは……そうだな、テレビで放映されている人間の絵と声で展開される物語ってところかな」

「へぇ。見てみたいかも。面白そう。とにかく、それに使われている曲なのね?」

「そうそう。アニメも面白いし、主題歌も良いの!! では、私のあとに続いてね」

「うん」

~♫

~♫

 やはり覚えるのが早いテトラ。一節を間違えることなく歌い熟す。次の一節に行く。どんどん歌ってあっという間にフルを歌いきる。あたしが覚えたの1週間かかったのに、テトラは1日で覚えた。やはり天才だ。それをしばらく繰り返し歌っていた。

「どうだった、アニメソングは?」

「楽しい曲調ね。そのアニメとやらも気になるし、曲も気に入った! またアニメソング歌いたい!!」

「じゃあ、明日もアニメソングにしよっか。残りはリコーダー、吹こうか。あ、その前に昼ご飯の時間にしようか」

「ご飯……なら、私も採ってくるね」

「もし、食べられるようなら、あたしの弁当食べてみない?お母さんが作ったのなんだけど……」

「食べてみたい! 普段は、ワカメなどの海藻を食べているよ」

「ワカメかー。お腹壊さないと良いけど……はい、卵焼き。あーん」

「あーん。美味しい。大丈夫だと思うよ。他にも何かちょうだい。ワカメよりこっちの方が美味しい」

「いいよ~。じゃあ、唐揚げ。どうぞ」

「あむ。もぐもぐ。これも美味しい。地上のお肉か。魚とはまた違った肉感」

お弁当は結局半分こした。明日からは2人分作ってもらおうかな。これでは、お腹が空いてもたないや。

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