対峙と退治
暗闇の深さを知った。
人がいない空間というのは、どうしてこうも暗いのだろう。昼間の明るさをどうしてここまで突き放すことができるのか、不思議に思い始めたのはここ最近だ。
昔はもっと普通に、夜を歩けていたのに。
世界を知ってしまえば、それが愚かだったことに気づく。
夜は暗い。暗くて果てなく広い。
その空間の中、彼らは目の前にいる。
怖くないはずがない。フウリはもう、その恐怖を知っている。
「暗いな。しかも相当深そうだな、この山」
「うん。もしかすると、当分帰れないかもね」
キイノが松明で山の全容を探る。なかなか広そうだ。
「どうする、アイジュ」
フウリは聞いた。リーダーの意見を聞きたかった。
アイジュはその大きな瞳に山々を写す。星空の光を受けた瞳がきらきらと輝いた。
「よし」
一言だけ言うと、アイジュはパンと手を叩いた。
「山には入らない。ここにいよう」
と言ってアイジュは笑った。
しばしの沈黙の後、タイトがアイジュに聞いた。
「理由は?」
アイジュは松明の炎の下、笑った。
「この山は広すぎる。ここをたかが四人で探し回るのは不可能。もし仮に対峙したとしても、一人でこの闇の中戦うなんて、死にに行くようなもの...なら、これまでの被害者と同様にこの付近で待ち伏せてそこを叩く。どう?」
天真爛漫、明朗快活といった言葉が似合うのがアイジュという人間だ。しかしそれと同様に、もしくはそれ以上に頭を働かせているのがアイジュという人間の本質である。彼女は恵まれた生活環境で育ったからだと言っているが、その頭の回転の速さは生まれ持ってのものだろう。
「当然、賛成」
フウリは頷く。タイトとキイノも無論である。
アイジュは笑みを深くし、その腕を高らかに天に掲げた。
「よし!じゃあ、今日は野宿だ!常に臨戦態勢をとること、一時たりとも油断しないこと!そして何より」
今度は腕を前方に掲げる。そして三人の前に拳を突きつけた。
「誰一人、死なないこと!」
三人は拳を突き出し、その正面を合わせた。
「おう!」
決起はわずか四人だ。けれど、それでも十分すぎるほどに勇気が湧いてくる。
それから約三時間後のことだった。
静かにその時を待ち、揺らめく炎を見つめていた。その時ふと、暗闇が揺れ動く気配を感じたのである。その気配に四人全員が気づいた。
ぱち、ぱちという薪が燃える音がする。
暗闇が目の前に広がっている。
ぱち、ぱち、ざら。
何かがそこにいる。目の前の闇が、わずかに揺れるのがわかる。
ぱち、ざら、ぱち、ざら。
ヒュ。
音が聞こえた瞬間、フウリはその場にあった松明を暗闇に向かって放った。
「ギシャアアアア!」
獣の声だった。獣が夜に吠える声。
どうやら放った松明が標的に当たったらしい。フウリは刀を抜き、松明が照らす暗闇に向かって構えた。その隙にキイノが薪をその場に散らし炎を広げた。
広がった炎の明かりのおかげで、その全貌が見えた。
長めの硬い毛を身体中にびっしりと生やし、夜の闇に点を描くような丸い瞳がこちらを見ていた。それは肩で息をし、その牙でこちらを今にも切り裂いてやろうという怒りに震えている。
しかしその牙は牙ではない。
獣の腕の先、人でいう手に当たる部分から刃物がのぞいている。
身体から直接、古びた刃物が生えている。
「予想的中だね、妖さん?」
アイジュが言った。
フウリたちは再び妖と対峙した。
今度は、退治する番だ。
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