ともだち

 透き通るような白だ。フウリのそれとは違って白の奥がわずかに透けるように思える。

 呆然とその白に魅入っていると、チハネが少し戸惑ったように言った。

「どうかした?」

 はっと我に帰る。

「いや!なんでもないよ」

 口が滑っても見惚れていたとはいえない。

「そ、その本いいよね」

 話題をそらそうとして辿り着いたのはそんな言葉である。実際にそう思ってはいるのだが、なぜか嘘くさい。

 チハネはわずかに目を見開いてフウリを見たが、気にせずに小説を眺めた。

「うん。本の中で旅ができる感じ、すごくいいよね」

 チハネは優しく笑った。出会ってわずかしか経っていないのに、彼の穏やかな性格が肌でわかる。

「そうそう!なんか、作者が旅をテーマにして書いてる感じするよね」

「明言はされてないんだけど、逆にそれが解釈の余地を生むっていうか」

 この手の話をタイトにしても『そうかー』の一言で片付けられる。キイノとアイジュは聞いてはくれるのだが、それでも食いついてはこない。

 心が浮つく。純粋に嬉しいのである。

 会話に花が咲くとはこのことだ。無理に言葉を紡ごうとしなくとも、流れに身をまかせるだけで糸が紡がれていく。

 するとチハネが言った。

「フウリ、図書館行くっていってなかった?今日は定期清掃で十四時で閉まるって言ってたよ」

 それは知らなかった。フウリは慌てて腕時計を確認する。時間はすでに十四時の十分前だ。

「うわ、こんな時間だ。今からでも間に合うかな」

 位置的には十分間に合うだろうが、探す時間がどうだろうか。それなりに大きな図書館だ、一冊を探すのにもそれなりに時間はかかる。

「じゃあ、この本あげるよ」

 チハネがフウリに本を差し出した。

「い、いやいや。悪いよ、それはチハネので...」

「ううん、いいんだよ。もう全部覚えたから」

「覚えた?」

 フウリは聞き返した。それにチハネは穏やかに答える。

「何度も読み返していたら、覚えちゃったんだ。だから、これは君にあげる。少しぼろぼろだけど、よかったらだけど」

 フウリは差し出された本に目を落とした。白い背景に一羽の黒い鳥が佇んでいる。無性に寂しさを覚えるその後ろ姿に、フウリは手を伸ばしていた。

 チハネは穏やかに笑った。

「...ありがとう」

「いえいえ。如何いたしまして」

 するとチハネは軽く挨拶をしてその場を後にしようとした。フウリはその後ろ姿を無力にも見つめていた。

 次の瞬間、フウリは橋の上からその背中へ向けて言った。

「今度!俺の感想を聞いてもらってもいい?」

 背中はゆっくりと振り返った。白い髪に太陽の光が当たって、とても眩しい。

「うん。もちろんだよ。楽しみにしてる」

 白い手が振られた。それにフウリもその手を振り返した。


 寮に戻ると、従兄弟たちがカードゲームで遊んでいた。

「あ、フウリ」

「どうだったー?友達できた?」

 この詰め寄ってくる感じ、少し苦手だ。フウリは両手で二人を抑えながら、かばんを下ろす。

「まあ、そうだね」

「何その返事」

「いや待てアイジュ。こういう時フウリは嘘はつかない。というかつけない。できなかったら正直に言うはずだ」

「ってことはつまり...」

 従兄弟たちは顔を見合わせ、みるみるうちに顔をほころばせた。

「すごいねフウリ!よくやったよ!」

「いやー、俺はできると思ってたよ。お前はそういうやつだ!」

「うわ!ちょ、やめろって二人とも!」

 頭をガシガシと撫で回される。完全に愛犬がお利口だった時の触れ合い方である。

 するとそこにキイノが入ってきた。

「あれ、フウリ帰ってきてたんだ。...どうしたの?」

「あ、聞いてよキイノー!フウリがね?」

 成果を聞いたキイノも一緒になってフウリを称えた。友達を作っただけでこれほどまでに褒められるというのもどうなのだろうか。

 しかしまあ、フウリ自身としては一歩前進である。まだ彼との関係は始まったばかりだが、それでも自分の世界が広がった気はする。これがどう特殊警備隊の生活に影響してくるかはわからないが、楽しいものになればいい。揉みくちゃにされた反撃をする中で、フウリは思っていた。

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