異世界からの贈物

緋桜

始まりはいつも唐突に

「まっ…ぶしいな……」


 異常な眩しさに顔ををしかめる。カーテン開けっ放しにしてたのか、寝起きで目が慣れていないだけか、痛い程の眩しさを感じた。


 しばらくして、やっと目が慣れてきた。少し頭が痛い。周りを見渡してみれば、ここは、俺の部屋じゃない事は明らかだった。部屋と言うよりは空間という表現をした方がいい場所だ。なにもない、ただただ真っ白い、そんな所だ。


 なにもないと言ったが、ほんとにないもない訳ではなく、そこには誰かが居た。背丈は小学生くらいだが、格好というか存在?が明らかに普通じゃない。だって、背中から翼が生えてるんだからな、これを普通なんて言える訳ないだろ?というか、あれ絶対飾りだろ、あんなので飛べるわけない。そんな事を思いながら、うんうん頷いていると。


「やあ、永田一希ながたかずきくん」


 話しかけて来た。名前まで知ってるし、まぁ、とりあえず無視だな。

 今は自分がどうなっているのかを考えたい。いや、コイツに聞いた方が早いか… いやいや、こんな怪しいやつと話すとか無理だわ、とは言っても現状で考えられるのは、最近流行りの転生云々とか言うやつだが、自分、もしかして死んだ? いや、ありえないな、半引きこもりの俺がどうやって死ぬんだよ、強盗でも入ったってか?あんなド田舎の民家にか?殊更ありえない。

 でもなぁ… なんて考えていたら、またアイツが


「かーずーきーくーんー?こんな美少女が声を掛けてあげてるのに無視なんて酷くない?」


 また、声を掛けて来た。はぁ… 仕方ない、自分で考えてもわからんし、コイツに聞くしかないのか… 物凄く嫌だけど仕方ない、うん、これは仕方ない事だ。


「あー、どうも」

「なにそのぎこちない挨拶、もしかしてコミュ障とか言うやつですかぁー?」


 返事してやったら、これかよ。にやにやしながらこんな事言ってくるとか煽ってるだろコイツ。


「あっ、ちょっといいかな?さっきから私の事、コイツとかアイツとか失礼だぞぉ?私にもちゃんと名前があるんだよ」

「あれ、俺声に出てたか?」

「ううん、心を読んだだけだよ」


 うわぁ、なんか凄い事言い出したぞ、コイツ。

「あっ、また言った〜、私には天使ちゃんって名前がちゃんとあるんだよ!」

「は、はぁ…」

 めんどくさいやつだな…


 しかもなんだよ天使ちゃんって、名前思いつかなくて役職を名前に採用した、みたいになってるぞ。よくあるやつだと勇者とかな、有名なくせに、名前は知られていない悲しいやつだな。そして、この天使ちゃんとか言うやつはそれと同列だ。


 つまり、可哀想なやつだ。


「あの…、私をそんな哀れんだ目で見ないで欲しんですけど……、それに、哀れなのは君の方だよ?」

「は?なんでだよ」

「なんたって君はこれから私…基、私の世界の為に酷使されるのだから!!」

「お、俺は何をさせられるんだ!?」


 酷使だと!?こんなひ弱な男子高校生をどうすると!?まさか、この天使ちゃんとか言うやつの為に奴隷のように働かれるのか……それはものすごく嫌だ。こんな性格の悪そうなやつの奴隷なんか嫌だ。


「なぁに、やることは単純さ。ただより良い生活を目指してくれればいいのだよ。引きこもりは禁止、ヒモになるなよぉ〜」

「え、どういうこと??」

「つまりは、君はこれから異世界とやらに行ってそこで、みんなが楽しく、そして笑い合えるようにして欲しいのさ、ついでに今の引きこもりを更生してもらうのさ。簡単な事でしょ?」


 か、簡単か?かなり難しい事を言っていると思うけど……それに、引きこもりの更生とか不可能に等しいと思うけどな。何せ、俺はおよそ5年間、中2から今までずっとそんな生活をしていたのだからな、それが急に変われるわけ……


「何も、いきなり変われ。なんて言わないわよ。時間を掛けてもいい、それよりも君にはまず、みんなの為に力を振るってほしい」

「力なんて言われても、俺には何もないぞ……」


 俺には何も……、中3の頃までずっと一緒に居た幼なじみですら助けられなかった俺に何が出来るってんだよ……


「なにを暗い顔をしてるのさ、それは君のせいじゃない。君も分かってるはずだよ、世界は理不尽だ、彼女はそんな世界に殺された。君が気に病むことじゃない。それに、そういった死を遂げた人はどうなると思う?」

「死んだ人間は元には戻らない、死んだら土に還るだけだ」


 なにを、当たり前の事を……、慰めなんていらない。


「確かに、身体は土に還る。でも、魂はどうなる?死んでしまったのは身体、魂は生きている。その魂はどこに行くと思う?」

「そ、それは……」


 魂なんて、非科学的なものがどうなるかなんて知らないし、魂が生きていたとしても、それが入る器がなんければ意味はない。それに、魂にも寿命のようなものはあるはずだ、3年も経ってしまえば、消えてしまうだろう。


「そう、魂にも寿命がある。寿命はおよそ1年。それ以上生きていたという記録はないね。でもそれは、魂だけだった場合だよ。魂が肉体に定着したら、その寿命のカウントはなくなる。でも、同じ世界では生きられない、理由は色々あるけど今は気にしないでいい」

「でも、この世界には戻って来れないんだろ?じゃあ、アイツともう会うことは出来ないって事だ、この話に意味はない。思い出したくないんだよ……」


 俺は昔から、無愛想で感情表現の下手な臆病ものだった、そのせいで友達と呼べる人はいなかった。唯一一人の親友を俺は事故で亡くしてしまった。それからは以前よりも塞ぎ込む事が多くなっていた、思い出す度に泣いた。


 もう、あんな思いはごめんだと思った。だから、親友はいらない。俺の親友は今は亡きアイツだけでいい……


「諦めないでよ、それに、私の話し聞いてた?君は今から異世界に行く。ここではない別の世界にね。それと、話の続きだけど、亡くなった人の魂は私のような神、あるいは天使、女神なんでもいいけど、そういう存在によって別の世界に送られるんだよ。つまりは転生だね。君の幼なじみちゃんも転生したよ、私の手でね」

「…っ!?そ、それはつまり、今から行く世界にはアイツがいるってことか!?」


 全く信じ難い話しではあるが、アイツに…緋桜美咲に会えるというなら、嘘だろうがなんだろうが信じてやる!


「ふふっ、やる気が出てきたみたいで嬉しいよ。それじゃあ、少し詳しい事を話していこうかな」


 まずは、そうだね、あっちの世界について話そうかな。簡単に言ってしまえばよくあるRPGゲームのような世界だね。


 モンスターがいて、人がいて、スキルがあって、レベルがある。ゲームオタクの君なら、これで十分だよね?そして、迷宮や遺跡のようなダンジョンが存在するよ、この世界が私の管理下にあるとは言っても全てを把握しているわけでもないし、制御出来る訳では無い。

 だから、こう言ったダンジョンとかはね、とにかく謎が多いんだよね。まだ、未攻略のものがほとんどで、見つかってないものもあるはずだよ。

 そういったものは無数に存在する。攻略はとにかく難しい、モンスターは強いし、一定周期で復活するそうだよ。そのせいで命を落とした人は少なくない。


 じゃあ、次に、君の行く予定の集落について教えてあげる。

 その集落はかなりの少人数でね、大人子ども合わせて20人くらい。種族は人種。君と同じだね。

 彼らは森と共に生きてきた、でも、最近はモンスターが以前よりも凶悪化して来ていてね、そいう言ったモンスターに襲われる事が多くなった、死人は出てないけど負傷者は後を絶たない。

 だから君には彼らを助けてあげて欲しい。でも、君は『俺にそんな力はない』って思うだろうけど、そこは心配しなくてもいいよ。


 転生者、あるいは召喚者、君の場合は送者おくりものかな?まぁ、なんでもいいけど、そういった存在は例外なく強力な力をもってその世界に入る。

 並外れた身体力はもちろん、特殊、固有の能力など様々だよ。これは行ってみて、君の目で確かめてね。


 最後に、君がやるべき事について。ざっくりと言っしまうと、みんなを守る。

 たとえその命が尽きようとも……と、までは行かなくともできゆる限り全力尽くして守って欲しい。

 それから、そこの人達が安定して暮らせるようにする。今は、いろいろとギリギリな生活をしてるからね。その改善をする。


 それが君の為すべき事だよ。


 ……と、言うことらしい。なんか色々と言っていたが、やることはそう多くは無さそうだな。


「分かった、その役目俺が請け負うよ」

「うむ、よろしい。なにか質問はあるかな?」


 そうだな、聞きたいことは色々あるが…

 なぜ、その集落に固執するのか

 なぜ、俺を選んだのか

 なぜ、俺に本当はなにをさせたいのか


 他にも色々聞きたいことは浮かぶが聞かれたくないこともあるどろうし、どうでもいい。


「俺が知りたいのは一つだけ。確認するようで悪いがほんとにアイツはいるんだろうな」

「彼女を向こうの世界に送ったのはほんとだよ。でも、彼女は今、何をしているのか、何処にいるのかは申し訳ないけど分からない、生きているは確実だよ」


 そうか、生きてるのか……


 生きているそれが分かった途端さっきまでの焦りは無くなっていた。安心して腰が抜けてる……はぁ、我ながら情けないとは思う


「聞きたいことは聞けた。覚悟は出来た」

「そっか、じゃあ、お別れの前にこれを渡しておくね」


 そういって渡されたのは、指輪だった。


 目立った細工はなく、宝石のようなものはついていない。ただ何かしらの模様が刻まれている。内側には……


「読めないな……」

「それは、神様の界隈で使われるルーンだよ。その指輪には神の加護が施されているのさ」


 なんでお前が得意げなんだよ。お前は神じゃなくて天使だろ。

 ルーンを刻んだものというなら魔道具みたいなものかな、装備者のステータスの向上とか経験値の獲得量が増えるかというアレだな。


「正解!」

 それは魔道具の一種で、チート級に凄いんだよ。

 装備時の効果はステータスに倍率を掛けるものだよ。倍率は1.25倍。

 例えば、敏捷値が100あったとするね、その時にその指輪を付けると数値は125になる。どう?強いでしょ?


「確かに、これは強いかもな。元のステータスが高ければ付けた時の効果も高くなる……序盤から最終盤まで使える便利アイテムだな」

「それは指に嵌めてないと効果はないからね、それと、装備品には耐久値があるから適度に手入れしてね」


 壊れたらそれでおしまいだぞ。

 と付け加えて言い終わる。

「これは有難く貰ったおくよ」



「それじゃあ、向こうの世界に送るね。君を送る予定の場所は森の中、集落のすぐ側だよ」


 苦労する事もあるだろうけど、投げ出す事はしたくない。やると決めたら最後まで、それが俺の信条。


「では、いってらっしゃーい。頑張ってね〜」






「約束は果たしたよ、美咲。これで良かったんだよね。ここから先の事は私には分からないしどうしようもない。あとはあの人次第だよ。正直、最初は『何コイツ』って思ったけど、君への感情は本物だった。だから任せてもいいかなって……なんか私もちょろい女だよね、あはは」

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