第18話 プール

 十三時に駅前に集合となっている今日は朱音と紫織、そして茉桜とプールに行く約束となっている。


 茉桜は一番最初に来ていた。


 朱音、紫織が来るのを二人で待っている。


 太陽の日差しが夏の暑さを加速させる夏休み。


 駅前では学生っぽい子は夏休みを満喫し、スーツを着た大人達はその子達を見て羨ましそうにしている。


 そりゃこの暑さだ、仕事だってやる気が出ないだろう。


「あ、来たな」


 駅の方から二人が仲良さそうに歩いてくる。


「お待たせ〜」


「ちょっと遅くなったね、ごめん」


「気にせんで」


「行きましょう」


 バスに乗り込んでプールの最寄りの駅まで行く。


 夏休みという事もありバスはパンパンになっている。自然と人と人との距離が近くになり密着状態となる。


「倒れないように紫織にくっついとくよ〜」


「うん、こっちにおいで」


 ラブラブやなー。バスん中でもお構いなしやで。まあ、普通にしてれば友達同士が仲良くやっている微笑ましい光景にしか見えへんやろうしな。


 バスが揺れ茉桜がバランスを崩している。


 抱き寄せるようにして「あぶないなー、こっち来とき」と言った。


「ふふ、ありがとう叶彩」



 プールに着くと着替えを手早く済ませて更衣室を出る。


 ここまで来るのに結構な時間がかかった。人が多く、なかなか受け付けまで辿り着けなかったからだ。


 施設の中は広く、あれだけ受け付けで混んでいたのにも関わらず、まだ若干人が入れるくらいの余裕はあるデカさとなっている。


 朱音は赤い水着を着ていて、紫織は濃紺の水着を着ている。


 茉桜やっぱり黒い水着似合ってるなー。エッチな時に大人びるからイメージぴったりや。


「叶彩、似合ってるわね」と言ってジーッと見てくる。


「目つきがなんかヤラシイわ」


「ええ、そうゆう目で見ているもの」


「はいはい、イチャイチャしてないで遊ぶよ」


「あたし達もイチャイチャしよ〜」と言って紫織の腕に絡みつく。


 朱音はいつも誰かの腕に絡みついているなー。そこがかわいいところでもあるけどな。


 まず最初に向かったのは流れるプール。


 みんなでプカプカと浮いている。


 茉桜は浮き輪にハマるように乗って流れていて、そこに掴まりながら一緒に流れている。


 横に朱音も同じようにハマって座り、紫織がひっついているような感じだ。


「ね〜、二人って夏休み中は結構会ってるの〜?」


「割と毎日会っているわね」


「まだほとんど始まったばっかりやけどな」


「いいね、私は結構忙しくて朱音とはあんまり会えて無かったから、今日は久しぶりに会えて嬉しいんだ。もちろん二人とも会えて嬉しいけどね」


「紫織は田舎に行ったりしてたもんな」


「実は〜、私もお母さんのお仕事を手伝いに行ったりしてて忙しかったんだ〜」


 夏休みに何をしていたかを話しながら、流れるプールを楽しむ。


 次に向かったのがウォータースライダー。

 一人またわ二人で滑る事が出来る。


「うわー、これ結構な長さあるな」


 真っ直ぐ滑り落ちるのでは無く、ウネウネとしていてなかなかのスピードで滑り落ちるのだが、すぐにはゴールに辿り着けずにスリルを楽しめるようになっている。


「じゃ〜あたし達先に行くね〜」


「また、下で会おうね」


 紫織が朱音を抱き抱えるように座って二人で滑って行った。


 朱音の「きゃー!」と言う高い声がどんどん小さくなっていく。


 だいぶ滑って行ったくらいにスタッフさんが「次の人ー」と言ってきた。


「私達の番がきたみたいね」


「そやな、はよいこ!」


「ふふ、楽しそうね」


「うん、めっちゃ楽しいで!茉桜とプールに来れたんもそうやけど、みんなとも会えたしな」


「そうね、私も楽しいわよ。楽しんでる叶彩を見ているのも楽しいわ」


「へへ、なんやそれ」


 茉桜を抱き抱えるように座ってウォータースライダーを滑っていく。


 茉桜ってほんまほっそい体してんなー、でも出るとこ出てるし、エッチな体してるわ。


 わあああ、っと叫びながら滑っていく。


 下で朱音達と合流して、次の場所に向かう。


 そこは五メートル、十メートル、十五メートルの飛び込み台である。


「うわ〜、これ行くの〜?」


「私はやめておくわね」


「茉桜は行かへんの?」


「私は行こうかな」


 朱音と茉桜はやめておくと言って下で飛び込むのを見守っている。


 結局紫織と二人で上まで登り、一人ずつ飛び込む。


 紫織は「ああ!思ってたより怖い!」と言いながら飛び降りて行った。


 ケラケラと笑いながら浮き上がってくる紫織を眺める。


 朱音と茉桜が近寄っていき紫織を引き上げる。


 先端に立ち、下を見下ろす。


 思わず「うわあ」と声が漏れ、飛ぶのを躊躇してしまう。


 茉桜が笑いながらこっちを見ている。


 水泳は得意やけど、この高さからの飛び込みは初めてやな。


 茉桜にかっこいい所見せたいし...行くか!


 両手を広げて倒れるように飛び降りる。飛び降りている途中で腕を上げて手を合わせる。頭から入水。


 周りから「おお」「かっこいい」と声が飛び交っているが、本人には聞こえていない。


 プールサイドに手をついて俯く。


「どうしたの〜?」


「大丈夫?叶彩」


 茉桜が手を差し出してきたので手をとりプールから出る。


「めっちゃ怖かった...」


「ふふ、おいで」


 茉桜に抱きしめてもらって落ち着いたコロナみんなで軽くご飯を食べに行くことにした。


「それにしても、茉桜と一緒にいる時の叶彩ってかわいいよね」


「ね〜、あたしもそう思う。最近ではかっこいいよりかわいいばっかりになってきてる気がする〜」


「二人っきりの時はもっとかわいいのよ?」


「全然そんな事ないし!」


「あれ〜?顔赤いよ〜?」


「あはは、叶彩には茉桜が合ってるんだね」


「いやいや、茉桜がウチじゃないとアカンねんで。茉桜がウチを好きすぎるんやし」


「言うね〜」


「ふふ、私は叶彩じゃないとダメなの。ちゃんと分かっててエラいわよ」


「もお!はよ遊びにいこうや!」


 恥ずかしくなってきて、話を切り上げで遊びに行く事を提案する。


 最後はこのプール施設の目玉となっている洞窟だ。小さい洞窟で四、五人くらいで入っていく。天井が星空のようになっていて、その光だけの空間となっている。


「じゃ、別々でいこうか」


「そうだね〜」


「ウチらは後でいいで」


 手を繋いで朱音達が洞窟に入って行く。


「この洞窟めっちゃ綺麗らしいで」


「そうみたいね。あと、結構暗くていい雰囲気になるらしいわよ」


「ふーん」


「何か期待したかしら?」


「してへんし」


 スタッフの方が持っている無線に「次にの人オッケー」と連絡が入る。朱音達が出てきたのだろう。


「次の人どうぞ。足元とかお気をつけ下さい」と声をかけられて茉桜と入って行く。


 洞窟の中はとても綺麗だった。


 星空に見えるのはゴツゴツとした光る石が散りばめられているからで、配置や光加減で演出しているようだ。


「めっちゃ綺麗やん!見て茉桜!すごいなー!」


「ふふ、そうね。とても綺麗だわ」


「そやな」


 天井を見上げる茉桜はとても綺麗だった。


「茉桜」


 茉桜がこっちを見た瞬間キスをした。


「ふふ、嬉しいわ」


「茉桜見てたらしたくなってん。好きやーってなって」


「大好きよ」


 大好きと言った茉桜の顔は洞窟が演出した星空ではあるが、キラキラと輝いていて見惚れてしまった。


「流石にここでエッチな事は出来ないわね、カメラもあるし」


「今、茉桜に見惚れてたけどそのセリフで現実に戻ったわ」


「あら、ウォータースライダーの時抱きしめてくれていたけど、手つきがエッチだったわよ?」


「あれは、茉桜の体見ててエッチな体してるなって思っただけや」


「またいっぱいかわいがってあげるから今日は我慢して、私のワンちゃん」と言って頭をよしよしと撫でてきた。


「はいはい、ほら行くで」と手を繋いで洞窟を進む。


「ふふ、はーい」


 洞窟から出て朱音達と合流し、少し遊んでから帰った。


 帰りのバスではみんなぐったりとしていたが、楽しい一日となった。

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