@deepa_wasd

『 雨 』

雨が嫌いだ。


この匂いが嫌いだ、昔の偉い人は虹の匂いなんて例えたらしいがそんな良いものか?


この音が嫌いだ、登校中の唯一の楽しみである音楽も傘に当たる水滴の音で崩されとても不快に感じてしまう。


いつも通り二番手で教室に着くが今日みたいな日はいつも通りにはいかない。

いつもより着いてからが忙しいのだ。

幸いな事に頭は濡れていないがこの湿気のことだろう僕の愛くるしい癖毛たちはきっと自分たちの120%の力を出しているに違いない。


「あー、べっちおはよー」

「べっちはやめろ、やべだ!やべ!・・・あ、あとおはよう」


天野はいつも通りのあいさつにいつも通り返す僕。


「べっちさー、数学の課題の問5わかった??教えてほしいんだけどー」


そう言いながら彼女は椅子を後ろに回し僕の机にノートと肘を乗せる。


「あれは僕もわからん、きっと吉崎先生のミスだ教科書のずいぶん先にそれっぽいことが載ってた」


教科書のページを開きそれを天野のほうに向ける。


「やっぱそうかー、なんかおかしいと思ってたんだよねー良かった私だけじゃなくって・・それよりさー」


「な、なんだよ・・・」


天野は立ち上がり両手で小動物を捕らえるがごとく構えた。

今ならきっと捕食される前の小動物の気持ちがよく分かる。


「べっちの髪の毛いつもよりもふもふーー!!」


わしゃわしゃと僕の頭に手を入れながらはしゃいでいる。


「や、やめろ!せ、せっかくのセットが台無しじゃないか!」


そんな僕の声は届かず、ニコニコと笑いながら彼女は僕の頭で遊んでいる。


いつも通りじゃない日のいつも通りな出来事。



だから雨はきらいなんだ。




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