第2話 農村での一日 ー01ー

 この世界に転生して15年ほどたった。

いつものように日が昇る前に起き、外にある井戸で顔を洗う。

家に戻ると母が昨日の夜に作ったスープを温めなおしていた。


「おはよう、母さん」


 そう声をかけるとこちらに振り向き笑顔を向けてくる。


「おはよう、ロイド」


 ロイド、こちらでの私の名前だ。

小さいころは違和感しかなかったせいで名前を呼ばれても反応がなく、周りからは知恵遅れかと心配されたが今ではそんな心配をされることはなくなっていた。


 テーブルに着くとパンとスープが目の前に置かれる。

いつも通り母にお礼を言いつつ食事にありつく。

朝にしてはかなり量があるがこれからことを考えると足りないまであった。

朝ご飯をおなかに収めて家を出る。

今日もいつも通り農作業をこなしに行くのであった。


 農作業で汗を流すと日は高くなり、昼になっていた。

昼になると自分だけ持ち場に離れて家に戻る。

家の戻ると他のものは誰もおらず、適当に食事をとり始める。

なぜ自分だけ家に戻ったかはちゃんとした理由があった。


 私は自警団に所属しているからだ。

村の治安は領から派遣される兵士の役目である。

では、自警団である自分たちは何をするかというと、モンスター退治である。

この世界ではファンタジーでおなじみのモンスターが存在するのである。

さぁ! スライムを倒し、レベルを上げて、チートライフを……


 そんなものこの世界には存在しない。


 そもそもレベルなどという概念がこの世界にはないし、モンスターとは名ばかりの野生生物が主である。

スライムなどが現れたらこんな村、簡単に飲み込まれてしまうだろう。

この世界のスライムはプルプル震えて仲間になりたそうに見つめたりしないのである。

そんなこんなで家にあるこん棒を片手に村の外へと足を向けるのであった……



 村の外に出ようとすると同じ自警団のらしき人物と出会う。

私はその人物をよく知っていた。


「よう、カイン。お前もこれから外に出るのか?」


「ロイド! お前もこれからなのか!」


 二人で世間話をしながら歩いていく。

カインとは結構な仲でよく話す男友達だった。

そうして歩き村の外へ出るとカインのおなじみの愚痴が始まった。


「はぁ、ほんとなんで俺自警団なんてやってるんだろう」


「カイン……またその話か?」


「だってよぅ、こんな危険で怖い思いしてるのに旨味がねぇんだもん」


 そうなのだ。

自警団はあまり人気の役職ではないのである。

危険な立場なのもあるが、役目のひどさである。

この世界では人間の手に負えないモンスターが現れることがある。

そのため自警団と登録されたものは原則、毎日村の外へと出て、誰か帰ってこなければ異常ありとして対応するというものだった。


「まぁ、私たちの役目は死ぬことだと言われると腐りたくなる気持ちもわからないわけじゃないよ」


「ロイドォ~~~」


 カインが鳴きながら抱きしめてくる。

いつもながら情けない様子でじゃれ合うが森の前に立つ頃にはカインも悪ふざけをやめ始める。


「じゃぁ、俺はこっちに行くからさ」


「あぁ、気をつけろよ」


「気を付けてどうにかなるならいくらでも気を付けるさ」


 お互いに狩る愚痴をたたきながら森の前で分かれて別行動をする。

森の中では原則一人行動することとなっていた。

おそらく少しでも広い範囲をカバーするためだろう。


「(本当に損な役割だな……)」


心の中でぼやきつつカインとは反対方向へと歩いていくのだった。

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