第39話 聖女(軟禁)に軟禁仲間が出来る⑩
そこ気にするのか。面倒だなぁと思っている間も「そもそもあの型は少し」とか「いえ胸元まで覆っておりますから」とか「しかし腹部と胸部の差が」とか「逆に自然で清楚に見えますが」とか「それだと男にはしてないように」とか続いている。
……固いコルセットだと逆円錐のシルエットになって、胸元ざっくりのドレスで色香を強調する事になるのが、このビスチェの場合、腹部を締めて立体裁断のカップで胸を支えるから今までのシルエットより自然なシルエットに見えると。で、それだとコルセットしてないんじゃないかって思われる事になると。
途中から隠す気あるのかと問いたいぐらいに声が大きくなってきたお二方に声をかける。
「あのー…そこまで論議されるなら普通にコルセットします」
頑張りますよ。吐くかもしれないけど、と思いつつ手を上げれば王弟殿下は確実にほっとした顔をして、アデリーナさんは少し眉を寄せた。
「申し訳ありませんが、少々このままお待ちいただけないでしょうか」
「はぁ、構いませんが」
いつになく鋭い声を出すアデリーナさんにそう返すと、彼女は素早く部屋を出て行ってしまった。
「……どうされたんでしょう」
「……さあ」
残された者同士で呟いてみるもののサッパリだ。
「……ずれたりしないのか?」
ぼーっとしていると唐突にそんな事を聞かれて横に来ていた王弟殿下を見上げる。
「ずれませんよ。飛んで見せましょうか?」
「いや、いい」
即行で首を振られた。ジャンプする令嬢なんて普通はいないからな。そもそもこっちのドレスは重くて飛べないし。
特に会話もなくそうやって待っていると軽く息を弾ませたアデリーナさんが戻ってきた。そしてその後ろには目が覚めた時に見たあの少女がいた。ダークブラウンの髪のかわいらしい感じの子。何故か紙束を抱えている。
「リーンスノー様、こちらへ来ていただけますか?」
「はい」
促されるまま寝室に行くと、丁寧に少女に挨拶をされた。
「初めまして。デリアと申します。どうぞお見知りおきを」
「リーンスノー・ジェンスと申します。リーンスノーとお呼びください」
アデリーナさんとやったようなやり取りをしたところで、ずいっと少女は私に近づいた。
「大変失礼かと存じますがそちらの御召し物を脱いでいただけますでしょうか」
「は? はい」
それは構わないがと、アデリーナさんに目を向けるとすぐに後ろに回って紐を外してくれた。
ガバリと胸元からカラードレスを外して脱ぐと今度は下履きもとパニエも指さされ、それも脱いでドロワーズとビスチェの姿になる。と、今度はそれもとビスチェも言われてはいはいと脱いで渡す。
アデリーナさんがすぐさま厚手の下着を渡してくれたのでそれを着て一旦部屋着に戻った。
「……リーンスノー様、こちらの胴衣ですがこの部分をもう少し大きく作る事は可能でしょうか?」
それは……出来るが……
アデリーナさんに彼女の前で出していいのか視線を送ると頷かれたので、自分の推定Bカップ用のものからDカップぐらいのものを出して渡した。
「ありがとうございます。それとこちらのドレスの素材、もう少し淡い色合いで作る事は」
「出来ます」
重厚な色合いの深い緑の色ではなく、ミントグリーンのような軽い色合いのカラードレスを出すとにっこりとされた。
そして持っていた紙束を私の前に出すと、ぺらぺらと捲って見せていく。
どうやらドレスのデッサン集のようなのだが……
「こちらにある型以外のもので思いつくものがありましたら、それを見せていただけないでしょうか」
え……
デリアさんの顔を見れば、依然としてにっこり顔だがその目が光っているように見えた。
慌ててもう一度デッサン集を見直して記憶を探る。
基本的にこちらのドレスは腰のあたりから膨らみを持たせるベル型のラインが多い、あとどっしりとした生地で動きがあまり無い。ドレープを作ったりレース生地を斜めに縫い付けていったりしているものもあるが、風に揺れるという感じではない。
となると、こっちの人に抵抗が少ない違う型っていうのはプリンセスラインぐらいか?
それで装飾にシフォン系の生地を使った奴とか?
そういう着る物に関して興味が薄いので持ちネタが少ない。
それでもこういうのあったっけなぁとやってみると、誰かの結婚式で見た様なふわりとしたドレスが出た。
「まぁ……霞のような…なんて美しい……他に、他にもございますか?」
若干鼻息を荒くした様子のデリアさんに手を握られ、引き気味に頷けばさあどうぞと手を離され仕方なくあまり受けが良くなさそうなAラインやマーメイドライン、エンパイアラインのドレスを出した。
生地はシフォンではなくて普通に見た記憶があるもので出したのでシフォンの時のような反応は無かったが、それでも生地の滑らかさや手触りは気に入っていただけたようだ。概ねポリエステルだと思うが。
もうありませんと早々に白旗を上げたのだが、同じ型でこういう形のデザインはとかシフォン生地を使って欲しいと言われて必死にイメージして出した。
そして今度は化粧道具に移ってこちらも知っている限りの道具を作る羽目になってしまった。
まさかここで基本的な化粧品一式を作る事になるとは……口紅とか一年通して同じ色しか使わなかった人間に微妙な差なんてわかりませんてデリアさんよ。
途中からアデリーナさんとデリアさんがこれは使える、これはこうだ、これをこうすれば良さそうだとか何やら作戦会議のような事が始まったので意識飛ばしていたら、いつの間にか居室に戻されていた。
目の前で手を振られて我に返ると、心配そうな顔をした王弟殿下が居た。
「大丈夫か?」
「はい……いつの世も女性の探究心はすごいですね」
君も女じゃないのか。という感じの視線をいただき曖昧に笑う。
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