第35話 聖女(軟禁)に軟禁仲間が出来る⑥
「今でも父が生きていれば私も兄も、姉もこんな事にはなっていなかっただろうにと――なんでもない」
「いえ」
弱音になる事は言えないのだろう。言葉を切った王弟殿下が、不敬だが少し憐れに思えた。
現王のリューシュ王は宰相の傀儡。王弟殿下は身の危険から辺境伯領に留まり、そして唯一の姫、エリーゼ姫は……どうなったんだ?
視線を落とし沈んでいる様子の王弟殿下に尋ねるのはさすがに失礼だから聞けない。
あとでこっそりアデリーナさんに聞こうかと考えつつ、思考をやるべき事へと戻す。
根っこの生えた花を花瓶に突っ込んで戻して(背丈が変わったからかなり歪だが、どうせ見る人間は私と王弟殿下なので気にしないだろう)、今度は辺境伯様から依頼されている防刃用の布地のイメージだ。
強度を保ったまま繊維状のミスリルをイメージ。
織り方はどうするか……とりあえず平織りにしよう。大きさは検証という事でスカーフぐらいで。
イメージを固めて手のひらに生み出し一旦テーブルに置く。
今度は綾織りをイメージして生み出したものを同じくテーブルに置く。続けて朱子織りもテーブルに置いた。
ひとまずクラバットとか首元の装飾に使えそうなシルク製品を念頭に置いてやってみたがどうだろう。
手に持った感じは軽いし、布とそう変わった感じはしない。見た目は銀色からやや青みがかったような光沢のある生地で、光の加減によっては仄かに青く発光しているようにも見える不思議な色合いだ。触り心地はシルク生地を念頭に置いたためか、それとも元が金属だからかツルツルとしている。
綾織りが一番厚みのあるしっかりした生地だから何か形を作るならこれがやりやすいだろう。ドレープみたいな装飾を作るなら朱子織りだな。平織はうーん……他のに比べるとあんまりかっちりした装飾には向かないような。
強度はどうだろうかと刺繍セットにある鋏を持ってきて刃を入れて見ると、なんとどれも切れなかった。自分でイメージしておきながら、これには内心驚いた。
「それはもしやディートハルトが言っていた布か?」
いつの間にか浮上したらしい王弟殿下が私の手元、生み出したスカーフを見ていた。
「はい。それの試作品です。この前出した金属で出来たものを布にしてみた物です。
繊維状にしているので強度は下がっているかもしれませんが、とりあえず鋏で切れない事は確認出来ました」
どうぞとまとめて渡すと、しげしげと一枚ずつ手に取りその手触りや色合いを確認していた。
「金属とは思えないな」
「もともと軽いものですからね」
「これで強度があるというのならすごいが」
「そこは後で辺境伯様に試してもらいます。イメージとしては首元の装飾にと思ってやってみましたが、見た目的に使えそうですか?」
「問題ないと思う」
「それなら良かったです」
強度もあればいいが。と、そこまで考えて、布自体の強度があったとしてもこれを首に巻いている状態で思い切り首を狙われたら普通に首の骨が折れるんじゃなかろうかと、そんな風に思った。
「……やっぱり食い込むよな」
「食い込む?」
口に出ていたらしい。こちらを見た王弟殿下と初めて視線が合った。一瞬動揺するように視線が揺れたが、途中であれ?という顔になってまじまじと見られる。
何だかよくわからないが……
「いえ……布自体に強度があっても棒で殴られたら骨が折れてしまうなと」
確か衝撃を受けると固くなる布があったような……商材で見た記憶がある……プロテクターとかに使われてて……衝撃を受けた瞬間分子結合が起きて硬化するんだったか……
「さすがに布でそれは難しいんじゃないか?」
「何事も挑戦です。試しにやってみます」
ミスリルの分子構造なんてものは知らないが、こう衝撃を受けると結合が強固になるイメージでいこう。
やってみると大分アバウトだったのか、先ほどより多く魔力が持っていかれた。
綾織りでやってみたが見た目は変わらない。うーむ。本当に硬化するのだろうか……バットで殴ってみたいところだが、生憎とこんな室内ではさすがに物品を壊してしまうので出来ない。
残念だが検証は辺境伯様に任せよう。
「いろいろと出しているが、魔力は大丈夫なのか?」
「はい、器が拡張されたのか前よりも増えたみたいです」
子供の頃から飽きる事なく魔法を使っていたから、魔力を空にすればするほど魔力が増える事は知っている。
王弟殿下の腕を生やした時はそれこそ薬で魔力を回復した傍から根こそぎ空にされたため、死にかけたがその分数年分は増えたんじゃないかと思う。特にここ数年はそこまで魔法を使ったりという事も無かったので、あの変人天才のレンジェルぐらいに増えているんじゃないだろうか?
……言い過ぎか。
「そういえば、かなり無理やり広げられていたからな」
うん? 広げられてと何故王弟殿下が……そういえばこのお人、治療系の加護の持ち主だったか。王族の加護が何かというのは秘密にされていそうなので聞く気はないが。
「私は『整える』という加護だから、リーンスノー嬢が倒れた時に治療を補助するため身体の状態を整えたのだ。その時に知った」
私の疑問を感じ取ったのか、律儀に説明をしてくれる王弟殿下。秘密ではないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます