【本編完結】ハゲの女神の紆余曲折(仮
うまうま
プロローグ
第1話 吾輩はハゲの女神(笑)である①
吾輩はハゲの女神(笑)である。
あ、ちょっと石を投げるのはやめていただきたい。
私とて冗談でこんな事を言っているわけではないのだ。
ハゲを馬鹿にして言っているわけでもない。
そこは信じてほしい。
そもそもハゲの女神と言い出したのは私ではないわけで、つまり他称による命名なのだ。
「おぉ………!」
今私の目の前には、鏡の前でおそらく云何年ぶりかのフサフサなアッシュブラウンの髪に再会し、両手でさわさわしながら喜びの声を漏らしているおっさんがいる。
少々小太りで背は低め。四十前半と思われる年齢を加味した容姿としては可もなく不可もない感じのちょい彫り深めなヨーロピアン的なおっさんだ。
ロココ調のぴっちりした白い靴下のような履物に上の赤茶と同色のひざ下までのキュロット。でっぷりとした腹を死守するかのように首下から下腹部までびっちりと並ぶ上着の金色のボタンは今にも職務放棄して弾けそうだ。襟元のフリル(いやクラバット?フリル多すぎて単なる装飾のフリルが縫い付けられているのかクラバットなのかわからない)とか、もはや骨付き肉の持ち手についている飾り付きキッチンペーパーのように見えてしまう。
おっさんはたった今、私が生やした己の髪に陶酔するかのように何度も何度もさわさわさわさわ両手で梳いたり撫でたり挙句の果てには指に絡めたり。やめてくれ。おっさんがくるくると指に髪を巻き付けるとか、視界に入るだけで精神ガリガリ削られる。
口からエクスプラズマを出しそうになっていると、おっさんは唐突に振り向き私の前にまるで聖人にそうするかのように恭しく膝をついた。
「あぁ我らが女神よ。偉大なる御業に感謝します」
そう言って私の手を取ろうとするのをスッと避ける。本来ならば吹けば飛ぶような男爵家の娘である私が、爵位が上の人間を避ける事などしてはならない。
だがこの場で私は頭の上から黒子さんのように布を垂らし黒く染めた髪も全て服の中へと収納。全身黒ずくめで唯一手だけが出ているという怪しい風体をして一切素性を知られないように徹底している。
それに、あちらさんも私が避けることは事前情報として知っているだろう。
「失礼いたしました。私としたことが喜びのあまり……本日は本当にありがとうございました。どうぞ教主様に宜しくお伝えください」
私はカーテシーではなく、男性の従者がそうするように静かに頭を下げた。
そしておっさんは意気揚々と持っていたモーツァルトのようなカツラを被り直して部屋を出て行った。
誰も居なくなった小部屋から私も続きの部屋へと移動し、鍵を閉めて息を一つ。
「あー……くさい」
気が抜けて防臭の守りを解いてしまった瞬間、部屋に残るきつい香油の匂いが鼻について思わずぼやく。香油といえば香水よりも柔らかくかおると聞いていたが、この世界ではそれは当てはまらないらしい。暴力的なまでの匂いを放つ。
そして本日のおっさんもべっとりしていた。何がと言えば、頭が。
どうしてそんな事がわかるのかと言うと、私が干上がってしまったおっさんの頭にふっさふさの髪を生やしたからだ。
なんだそれは、と言わないでいただきたい。
しょうがないのだ。私の加護が『生やす』という微妙なもので、かつコントロールさえも微妙なのだから。
この国には私のような貴族が扱う地水火風の基本魔法の他に、精霊の加護と呼ばれる不思議な力が備わっている者がちらほらと居る。
有名というかオーソドックスな所で言えば、『切る』『燃やす』『凍らす』『防ぐ』といったものだ。この加護を持つ者は大抵軍部に身を置く。戦闘に適しているからだ。希少なもので言えば『癒す』『戻す』『治す』あたり。これはゲームで言う所の回復魔法に相当するもので、これを持っている者も軍部に所属する事がほとんどだ。あとは農産系の職につく『増す』『耕す』とか土木系の職につく『穿つ』『均す』などいろいろと加護の種類はある。
そして私の加護『生やす』についてだが、これも一応希少なものに分類される。少なくとも私以外にこれを持っている人を聞いた事がない。一応希少なものであるらしいので、母に言われて学生時代以来言わないようにしていたのだが――事の始まりは数か月前だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます