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とりあえず、まずは全体を一周しながら、気になったものを見て行こう、という形になって、私達はパークを右回りに進むことにした。途中、菜穂美の好みっぽいイケメンのお兄さんがいたから、いつものように突っついてみたんだけど、なぜか今日は、ちっとも反応がなかった。
「ねえ、柚月、見て!」
突然、テンションが上がった菜穂美の視線の先には、可愛らしいクマの着ぐるみがいた。
「写真撮ってもらおうよ」
そう言って、私の手を引っ張って連れていく。別にこんなことごときで、と自分でも思うのだけど、こないだから私は変なのだ。菜穂美に触れているほうの手だけが、妙に熱かった。
クマの着ぐるみは、私達の間に入って肩を組んだり、思い切りくっついたポーズで写真を撮らせてくれた。菜穂美はすごく喜んでいて、それを見ていると、なんとなく、さっきの邪念も消えていくような気がした。
古いアメリカを模した街だとか、未来をイメージした街だとかを、色々寄り道しながら、途中アトラクションに乗ったり、屋台で食べ物を買ったりして進んだ。そして、お昼は奮発して、学生にはなかなか手が出ない価格帯のレストランに入ってみた。
「ここ、ずっと来てみたかったんだよね」
幸せそうな顔で菜穂美が言う。
「彼氏とじゃなくて、残念だったね」
そんなつもりはなかったのに、ついつい、嫌味を言ってしまう自分がいる。すると、菜穂美は少し怒った顔をする。
「なに、言ってんの。柚月と来たから楽しいって言ってるのに」
当たり前のようにそんなことをさらっと言うもんだから、なんだか恥ずかしくなってしまうのだった。
豪華なランチを堪能し、午後になってからは、のんびりとしたアトラクションを中心にまわってみることにする。途中でパークを一周する船に乗ったり、海底世界を旅するアトラクションにも乗った。
ひととおり回る頃には、あたりは少しずつ暗くなってきて、パーク内はライトアップされてくる。本当によくできた世界だなあと思う。
「なんか、こうしてると、デートみたいだね」
周りを歩くカップルたちを見ながら、菜穂美はそんなことを言う。側から見ればこれは思わせぶりな台詞、というやつなんだろうけど、彼女がヘテロで、私の性別が女である以上は、本当に他意のない言葉なんだろうな、と思われる。
そんなことはわかりきっていたことなんだけど、なんとなく頭が痛かった。
「ねえ、手繋いじゃおっか。暗いし」
こちらの心のうちなど知るよしもなく、菜穂美はまたそんなことを言う。
「はあ? なにそれ……小さい子でもあるまいし」
「えー、いいじゃん。ちょっと寒いし、こうしてるとあったかいよ」
言うが早いか、菜穂美は私の手を取る。確かに温かい。だけど、ということは、菜穂美のほうは、私の手によって冷えてしまうんじゃないだろうかと思うのだけど。
だけどそんなことは関係ないとでも言うかのように、菜穂美は私の手をぶんぶんと振り回しながら、本当に楽しそうにパーク内を歩いていく。触れている手の温もりがくすぐったくて、なんだか苦しかった。
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