I'm Crazy for U

霜月このは

プロローグ(1)

 ライムで濡れた人差し指に塩を乗せる。ぬるっとした舌がそれをさらっていく。


「ちょっと、何すんの」

「ごめんごめん、間違えた」


 言い訳にもならない台詞を吐きながら、柚月ゆづきはショットグラスのテキーラを飲み干す。もう三杯目だった。勢いでセミロングのストレートヘアが揺れる。素のままで長いまつ毛が憎らしい。


「足腰立たなくなっても知らないからね」

「大丈夫だって」


 周りを見渡せば、私の他のメンバーは、ほとんど、とろんとした目をしている。同じペースで飲んでいるというのに、アルコールの耐性はなぜこうも違うのか。


 私は大学一年生で初めてお酒を飲んだときから、同期の誰よりも強くて、みんなが早口になったり顔を赤くしたりするのを、いつも冷静に眺めていた。

 楽しめないわけじゃないけど、アルコールに強すぎるのも考えものだ。大体酔っ払いの世話をするはめになるし、何より酔おうと思うとコスパが悪いのだ。


実希みきのおっぱい、大きいよね。さわらせてよ」

「えー、やめてよー」


 いい感じにできあがった柚月と実希がじゃれている。実希のおっぱいは推定Fカップはあるので、仕方ない。あの柔らかそうなおっぱいは、ヘテロの私でも触りたくなる。


亜弓あゆみって結局、バイなの?」

「美夜こそ、どうなの」


 亜弓と美夜みやは、なにやら楽しそうにひそひそ話をしている。年齢のわりに小柄な亜弓は、みんなに可愛がられていじられることが多い。一方、美夜は、妙に色気のある女で、男からも女からもモテる。美夜にきわどい質問を投げかけられて、亜弓は顔を真っ赤にしていた。


 ここは別にクラブとか居酒屋とかでもなんでもなく、私の住んでいる賃貸マンションの一室だった。大学生の一人暮らしのくせに、無駄に広いファミリー向けマンションに住んでいるから、私の部屋はいつもみんなの溜まり場になる。


 キッチンもお風呂も、みんなの実家と変わらないサイズだし、部屋もリビングの他に二部屋ある。だから泊まったり、みんなでご飯を作って食べたり、こんなふうに飲んだりし放題というわけだ。


 つくづく、いいご身分だと思う。ただ勉強をしていれば、それだけで許されて、働かずに遊んでいられる。それが時々つらくなることもあるけれど、私たちは確かに青春を謳歌していた。


「しかし、実希が帰ってきて安心したよ。菜穂美なおみ、実希がいなくて寂しいって、私を呼び出すもんだから、半同棲してたようなもんだったよ。彼女かっつーの」


 柚月がそんな聞き捨てならないことを言う。


「えー、柚月が寂しがってたんじゃん。失礼な」


 今日は、交換留学から帰ってきた実希の、無事の帰還をお祝いする会だった。実希は五人分のショットグラスと、帰りに旅行で寄ったメキシコ土産のテキーラを持ってきた。他のメンバーもそれぞれ、おつまみやらお酒やらを持ち寄って、私の家でどんちゃん騒ぎをしようというわけだった。

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