後輩からのバレンタイン

夏限定盛蕎麦定食

後輩からのバレンタイン

「先輩! これ、どうぞ!」


 と、目の前の女の子からチョコを渡される。


 今日は2月14日。女の子からチョコを貰える日だ。

 制服を着こなした短いツインテールが似合う可愛らしい後輩。その子から渡されたのはハート形の容器で、中身も同じハート型のチョコレートだろう。言わずもがな本命だ。


「あ、ありがとう。あとで大切に食べるよ」

「いま食べて下さい。感想聞きたいので」

「うぐ」


 思わず首を突かれたような変な声が漏れる。

 チョコをくれたのは嬉しいしその場で食べるのも──百歩譲っていいとしても場所が悪い。


 急に呼ばれて教室を出たすぐの廊下。HR《ホームルーム》後ということもあり、知り合いも含めた大勢の生徒にこの現場を絶賛目撃中なのである。

 この子を見つめる気恥ずかしさより周りの目がどうなっているか怖くて目を離せられない。それを好意に思っているのか彼女は可愛らしい小さく微笑んだ瞳で見つめ返してくる。

 思わず惚れてしまいそうだが理性を保ち箱を開けて中身のチョコの先を一口かじる。食べた後に気付いたがチョコには自分の名前と大好きという文字が描かれていた。


「おいしいよ」

「ほんとですか! やった!」


 口を押さえて笑いぴょんと体が跳ねる。まるで小動物のような可愛らしさは周りの男共も惚れたことだろう。

 そんな恋愛劇を繰り広げる横を一人の生徒が自分の後ろから通り過ぎる。よくこんな甘い空間の中を横切れるなんて堂々としてるな、なんて渦中の人物である俺は思った。

 その生徒は顔こそ見えなかったものの黒髪ロングでスカートを履いていた。なんだか後輩とは対局に位置してそうな雰囲気を感じる。

 その女子生徒の空気感に当てられたのか、自分は無意識に口に運ぼうとしていたチョコを箱に仕舞い込む。


「残りはあとで、大切に食べるよ」

「そうですか。では、先輩また明日」


 小さく手を振りパタパタと帰って行く様子を見届けて自分は教室に戻る。机にある鞄の中に持っていた箱を出来るだけ奥底に潜り込ませる。


 ズボンのポッケにあるスマホが振動する。確認するとそこには本命の彼女からの着信があった。

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後輩からのバレンタイン 夏限定盛蕎麦定食 @summer23101

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