17杯目

「花ちゃん。今度、お母さん帰ってくるんだ。それでね、花ちゃんにも会いたいって言ってて……」

「え?」


そんなメールが七絵ちゃんから入った数日後。

喫茶店 太陽のお休みに合わせて、店内で集まった喫茶店 太陽の山田さんご一家。と、私。


……どうして私がここに呼ばれたんだろう?


七絵ちゃんからはメールで『お母さんが花ちゃんにも会いたいって言うから……良かったらお休みの日だけど、お店でご飯食べませんか?』と言われたけれど、そんな……会いたいって、ちょっとご挨拶じゃなくて、一緒にご飯を?と、緊張した私。


だって、ただのバイトの私が、こんな久しぶりの家族の団欒に紛れ込んでもご迷惑じゃないの?久しぶりに会ったお母さんに七絵ちゃんも甘えたいだろうし。店長もいろいろと積もる話もあるんじゃないかな。

会いたい、というだけ、簡単なご挨拶なら、バイトしている休憩時間なんかでもできるけど……。


そう思って、一度はお断りしたんだけどね。

「お母さんが、今回は無理なら、花ちゃんの都合が良い日に合わせるからって……ごめん。こう言い始めると、お母さん諦めないから。どうしても嫌じゃなければ、お願いしていい?」

ごめんね、お願い、の絵文字が大量についたメールを貰って、さすがに、これは……と、行くことにした数日前。

「お母さんが迷惑かけないようにフォローするから」

とまで言われたら、遠慮して行かないというのは無理でした。


そして、今日。

店長が作った料理が机に並び、それぞれ飲み物も用意できたところで、ようやく全員が席についた。


お店の一番大きなテーブル席で、私の隣に七絵ちゃん。その前には店長。そして、店長の隣、私の前には、お二人のお母さま。

喫茶店 太陽のメンバー全員集合って感じ。


「では、改めて、母さんの帰宅と、花子ちゃんとの顔合わせをお祝いして」

「乾杯!」


手元のグラスを合わせて、チンと音が鳴る。

ごくごくと、音を立てて一気にグラスを空ける店長の姿に見惚れていると。

「もう、お兄ちゃんったら。ビールじゃないんだから、そんなに一気に飲まなくても……」

「あー、……悪い。ちょっとお代わり用意してくる」

「まったくもう、空気読まないんだから……」

「まあまあ、七絵もそんなに怒らないの。和宏も相変わらずで、安心したわ」

「別に怒ってる訳じゃないのよ。ただ、今日は家族だけじゃないんだから、ちょっとくらい遠慮したらって」

「あ、あの、私は別に……」

「ほら、花子さんが困ってるじゃないの。この二人がいつもご迷惑かけてごめんあなさいね」

「え、そんな迷惑だなんて……私、お二人にはいつも感謝してるんです。ここで働かせてもらって、この町で自分の居場所もできましたし、美味しいご飯も頂いていますし……」

「あら、そうなのね。……それを聞いて、安心したわ」

「私も」

「俺も」

「え、ちょ、ちょっと皆さん、何ですか?!」

なんで、そんな顔して一斉に見るんですか!とは、さすがに言わなかったけど、一気に注目を浴びて、困る。


「ふふ。ちょっとね、嬉しいなって思ったの」

「え?」

「この子達や、お店のお客様からもね、時々お店の様子を聞いていたのよ。和宏が、お客さんだった花子さんを無理やり誘ったんじゃないかって、最初心配していたの。もしかして、他にこの町に来た理由があるのかなとも思ったりして……」

「いえ、あの、私、本当に目的もなく、何となくこの町に……あ、すみません、治安も良さそうで生活するのに安心かなって思って……なので、全く見ず知らずの私をこうして受け入れてもらえたことに、本当に感謝しているんです」


そう言って、軽く頭を下げた。


「あらあら、そんな風にされると、何だかお別れみたいじゃない。ほら、お顔上げて。あのね、花子さん」

「はい」

「もしかしたらね、私が戻ってきたことで、今のお店のバイトがクビになるかもって心配しているかしら?」


え。


「ふふ。当たりかしら?」

「ちょ、ちょっとお母さん、何言い出すの。花ちゃん居なくなったら、私困るんだけど」

「そうだよ、何言い出すんだよ」

「あなた達はそう思っていても、それをちゃんと、花子さんにお話ししたの?」

「え、そんなこと無いって思ってるから特には……」

「俺も……。ずっと居てくれるものだと……あ、でも、もし花子ちゃんが辞めたいのなら、その……」

「あ、あの、私なんかが……その、何のとりえも無いですし、お料理もお菓子も作れないのに、雇っていただけで、その……」

「え?辞めたかったの?」

「あ、いえ、そういうことではなくて、その……」

「和宏」

「なんだよ、母さん」

「なんなら、私の知り合いのお嬢さんをお店のお手伝いに呼びましょうか?確かお菓子作りもお上手だったはず……」

「そんなの必要ない。俺は、花子ちゃんがいいんだ」


え。

今のって……。


「お兄ちゃん……それって、告白?」

「え?」

「花子ちゃんがいいんだ、ね。和宏、そうやって、はっきり言ってあげることも大切よ」

「え、ちょ、俺、……え?」

「あら。まさか、冗談だったの?」

「冗談なんかじゃない。俺は、俺が一番大変な時に助けてくれて、一緒にここまで頑張ってくれた花子ちゃんがいてくれるのがいいんだ。……、あ、花子ちゃんが嫌なら、その……」

「もう、最後がしまらないわねぇ……。ということで、花子さん」

「あ、はい」

「これからも、お店と和宏のこと、よろしくお願いしますね」

「あ、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」





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