13杯目

「ありがとうございました!」


カラカランと音を立てて、お店の扉が閉まっていく。


「はい、珈琲どうぞ。ミルクたっぷりのカフェオレだよ」


お客様をお見送りした後、店内からふわりと優しい香りが鼻をくすぐった。


「あ、ありがとうございます。じゃあ、休憩頂きますね」


どうぞどうぞ、と言わんばかりの笑顔で、カフェオレとナポリタンがカウンターに並べられた。


こうやって、喫茶店 太陽で働きはじめて、もう3ヶ月。初日の、あのバタバタ以降は、お客様がのんびりと楽しむ様子がいつもの風景になった。それでバイト雇っても?と思う時はあるものの、私がいることで、店長もちょっと息抜きしたり、接客を気にせずゆっくり食事が取れるようになったと、毎日のように感謝の言葉を送ってくれる。


……それをお客様の前で言われると恥ずかしいのですが……


そんな私の思いに気づくことなく、常連さんからも

「花子さんが来てくれて良かったねぇ」

なんて言われては、私のことを持ち上げてくれて……なんというか、うん、その……羞恥プレイかな?と思うこともあったりなかったり。


「ん?花子ちゃん、どうかした?」


お昼ご飯のまかないを前に、ぼんやりした私に店長の声が…………えぇっと…………。


『花子ちゃん』


と、いつの間にか常連さんから呼ばれるようになって、そして、いつの間にか店長も、そう呼ぶようになって、その度に赤面しては周りから生暖かい視線を感じていたけど、うん、もう気にしないことにした。


「あ、ナポリタン大盛の方が良かったかな?」


そんな乙女心に気がつかないどころか、こんな事を女性に言うなんて、本当に……。


「そんなこと言ってると、女の子に嫌われますよー?」


「え?そうなの?ごめんごめん!俺、花子ちゃんに嫌われるの辛いなぁ」


うっ。


ナチュラルにそんなことを言って、本当に困った顔をして私の方を見ないでください。


「冗談ですよー。では。いっただきまーす」


ぱん!と手を合わせて、ナポリタンを口に運ぶ。


だって。

そうしないと、にやけた口元と赤くなりかけた頬に気づかれてしまうから。

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