2杯目
「『塔』『FOOL』『ワンドのA』……」
七絵ちゃんが見せてくれるタロットカードは、私がなんとなく知っているそれとは違う、なんというか、その、ひどく荒々しい絵柄だった。
「花子さん、トート・タロットを見るの初めてですか?」
「うん、占いに興味がない訳じゃないから、タロットカードは知っているけど、こんな絵柄は初めて見るかなぁ。」
私の心を読むかのように、七絵ちゃんが聞いてくる。多分、顔に出ていたんだと思う。だって……。
「トート・タロットは、魔術師のカードとも呼ばれていて、他のタロットとはちょっと違うんですよね。……えっと、それで、このちょっと怖い建物のカードは『塔』のカードなんですけど……花子さんがお仕事辞められたのって、あの……会社の倒産とか、人材整理とか、その……辞めたくなかったのに辞めざるを得ない状況、だったんじゃないですか?」
「え。」
どうして分かったんだろう。
「あ、話したくないことでしたら、無理には聞かないです……その、このカードは『見えない力が働く転機』を表すことが多くて、お仕事だと、その、一方的な解雇だったり、思いもしなかった場所への転勤なんかの時に、出てきます。」
トート・タロット、凄い。
私は、その1枚に込められた意味に、思わず圧倒される。
「あー、うん。もともと契約社員だったから、いつかは契約終わるんだろうな、と思っていたんだけど、そろそろ正社員かも?と期待していた時に、会社の業績不振で、ね。」
「そうだったんですか……。でもね、花子さん。」
「うん?」
「『見えない力が働いて』仕事を辞めたということは、花子さんの人生にとって、何か大きな意味があるんですよ。元の仕事では成し遂げられなかった何かを始めるとか、新しい出会いとか、所謂『運命的』な区切りなんです。」
「へぇえ。」
何だか、凄い話になってきた。
『塔』のカードかぁ。
「この塔……タワーとも言うんですけど、これは過去の位置に出てきているので、退職という形で終わってます。それで、次のこれが、現在の状況なんですけど。」
『塔』のインパクトにちょっと驚いたけど、これも、なんというか……少なくとも私が知っているタロットの絵柄ではないよね。ピエロ?宇宙人??なんだろう、このキャラクター……。
「他のタロットでは『愚者』と言われていますが、トート・タロットは、特別なカードとしてこの『フール』があるんです。」
「愚者……なんか聞いたことあるような……」
「えーっと、崖っぷちで落ちそうになっているに気がつかずに進む男の子と犬、ですね。」
「え、なにそれ。」
面白い、というかお馬鹿さん??あ、愚者だから、愚か者か。
「トート・タロットのこのカードも、まあ似たような……天真爛漫なカード、または、トランプのジョーカーのような変幻自在のカードとも言われています。」
「へええ……。」
なんだかもう変な声しか出てこなくなった。
「えっと、それで『フール』が現在にあるということは、ですね。」
うん、本題に戻ろう。
「花子さんは今のこの状況を、すごく楽しんでいるか、もっと楽しんで良いですよ。」
楽しむ。
この退職して何もない状態を?
「えーっと、何にも考えずに、とりあえず楽しめ!ってカードなので、そうそう『考えるな。感じろ』ですよ。」
考えるより楽しむ。
……。
とりあえず目の前のチーズケーキを食べよう。
うん。
疲れた頭に糖分必要だもんね。
「あ、おいしい。」
甘味と酸味のバランスが良くて、口当たりも滑らか。うん、大好きな味だ。
「ふふ。花子さん、幸せそうに食べますね。お兄ちゃんのチーズケーキは絶品でしょ?」
あ、このケーキ、お店の手作りなんだ。
ナポリタンといいチーズケーキといい、この喫茶店に対しての私の評価がぐんぐん上がる。
こくり、と少し冷めたコーヒーを飲んで、七絵ちゃんに視線を送る。
さあ、最後の1枚。
私の仕事の『未来』は、どうなるの?
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