君に会えるだけで。
撫子桜
第1話
目の前に広がっている桜の花吹雪。
そしてその奥にいるのはとても美しく靡く綺麗な黒髪。声を出そうと思ってみたが何故か声が出なかった。だから僕はあの子に手を振ってみた。流石にそうすると気づいてくれたようで、靡く髪を抑えながら僕の方を振り向いた。
「……大好き」
そう聞こえた気がした。
_____
それは小学生のこと。
僕の誕生日に態々従兄弟が駆けつけてくれた。
同い年でありながらも少し大人びていたあの子は僕に、あるプレゼントをくれた。
それは二人にとってある意味破滅を導き、ある意味幸せをも導くチケットだった。
とても綺麗な字のチケットだった。
「これあげる!」
「え……何これ?」
「春ちゃんと結婚してあげる券!」
「こんななんもない僕と結婚してくれるの?」
「うんっ! えへへ、私春ちゃん大好きだもん!
どんなにかっこいい人が告白してきてもそれさえ私に渡してくれたらぜーーったぃ! 結婚してあげる!」
そう子供ながらに言われた。
当時の僕は舞い上がった。その子が好きだったから。
僕は絶対成人したらそれを使おうと思った。そしてその子につり合うために、どんな努力でもしてやろうと思った。
今まで逃げてきた習い事にもちゃんと通い、勉強もちゃんとした。食事のマナーも全部やったし貯金も、手伝いだってなんでもした。
それをしても辛くないほど僕はあの子のことが大好きだった。
でもそれが叶うことは無かった。
彼女は死んだのだ。いや……そう聞いた。
それを両親とその子の親は僕に聞かせまいと、僕が寝静まった頃の深夜に話していたのだ。だけど僕はなんと不運なのかそれを聞いてしまったのだ。
今もそのチケットは僕の財布の中に大切にしまってある__。
___
「~~~? ~~ん? 春くん!?」
「んっ!?
あ……ああ、中山さんか。どうしたの?」
「もー、どーしたのじゃないよ!
早く国語の課題提出して! 私が怒られるんだから!!」
「あ……ごめんごめん。
今すぐ渡すね」
「もぉ……」
ぷくーっと頬を膨らませている彼女に国語の課題を渡した。「ありがとっ」と言いながら僕に向けてウィンクをして去っていったけど。
相変わらず男を好かせる人だ。
中山さんといえば魔性の女……とも言えるし言えない。男を好きにさせて弄ぶ訳では無い。寧ろ、中山さん自身に好きな人がいるとも聞いたことがある。同じクラスの女の子にからかわれて「私にだって好きな人いるんだから~~ぁ!」と怒っているのを聞いたことがあるってだけだが。
まあ、男をすきにさせるのは間違いない女の子ではある。性格もよけりゃ顔も良い。惚れない人なんているわけないとも言えるのだから。
僕は心に決めた人がいるだけで惚れないだけだ。
正直同じ部活に入ってるので、そこで落とされそうにはなるけど。
不意に手のひらに違和感があったので広げてみる。そこには小さな手紙が挟まれており「悩んだらちゃんと相談することっ」と書いてあった。
全く、あの子には叶わないな。そう思いながら僕は、中山さんに軽くメッセを飛ばしたのだった。
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