頑張る君の姿はきっと誰かが見ているから
第7話 「電話と恋のキューピット?」
「もしもし?」
画面に表示されているのは知らない番号だったが、万が一ということがある。
「もしもし……?」
一向に返事がないので、天姫はもう一度声を掛ける。
「あっ、ほんとに出た〜」
相手は甲高い声の女性。声の主は、卓の幼馴染の——香坂一瑠である。
だが二人は面識がない。
天姫にとっては、その声に聞き覚えがなく、イタズラ電話と思いすぐさま切ろうとした時だった。
「いつまでもタクを見つめるだけでいいの?」
その言葉を聞き、天姫は通知終了のボタンを押そうとしていた手を止めた。
「……タクくんについて何か知ってるんですか?」
なんのことですか? という質問を投げかける必要はない。この人は何か情報を持っていると確信した天姫は会話に応じる。
「そりゃあ幼馴染だからね」
確かにタクくんには幼馴染がいるとは聞いていた。しかし、その幼馴染がどうして自分に……と天姫は考える。
「櫂天姫ちゃんだよね?」
「は、はい。貴方は……」
「アタシは……んーそうねぇ。"アルファ"って名乗っとこうかしら」
「アルファさん……? なんで本名を教えてくれないんですか?」
「だって、アタシが関与していることがバレたらタクに怒られるし、偽名の方がカッコいいじゃない」
それは本当の理由じゃないとすぐさま見抜いた天姫だったが……今はそれで納得しておく。
「それで、アルファさんは私になんのご用でしょうか」
「直球に聞くけど……天姫ちゃんってタクのこと好きでしょ?」
「す、好きですよ……?」
国民的アイドルに好きな人がいるなんて普通は言えない。けれど、このアルファという人物には全部お見通しだと思う。だから正直に答える。
「ハッキリと言ってくれてありがとう。でも周りにはライバルも多いし、立場的に迂闊には行動できないよねー」
「何が言いたいんですか?」
「まあ遠回しに言っても仕方ないからキッパリ言うわ。——アタシと協力しない?」
◆
「ふわぁ〜……あー……」
眠気を感じながら、学校に登校してきた俺は、二年生の下駄箱を開け、内履きを取り出そうとした時、ある物を発見した。
上履きにの上に白い封筒が置かれていた。下駄箱に入ってる封筒といえば、思いつくのはラブレターで———
「なんてあり得ないわな」
変な期待はせず、ビリビリと雑に開けて封筒の中に入っていた中身を見る。
「えーと、なになに……」
『伝えたいことがあるので今から体育館裏に来てください』
と、一文。
文章だけなら、ラブレターだが……明らかに急いで書いたような乱雑な文字だ。
なぁ、笑っていいか? いいよな? くっくっく……今時こんなわかりやすいラブレター送るやついるんだなーっ!! しかも今からって完全に俺をボコる気満々じゃないかよ!!
こんな分かりやすい嘘告に引っかかるはずはないが、俺はルンルンで体育館裏に向かった。
「よぉザコウ」
案の定待っていたのは、金髪ピアスの男子生徒。名前は確か、
この場にいるのは公道一人だけ……。リンチじゃないのか。タイマンか。
しかし、1人でよく呼び出せるよなぁ。だって俺が来なかったらさ……。
「ラブレターだと思ったらまさか俺がいてびっくりしたんだろ。はっ、怯えて声も出せないかw」
俺が来るまでずっと待ってたのかよ、と考えていたのだが。もし俺が来なかったらどうするつもりだったんだろ。
とりあえず陰キャモードでも発動しとくか。
「な、何かな……? 公道くん……?」
弱々しくそう呟くと、公道はズボンのポケットに手を入れながらしばらくウロウロと歩いていたが……やがてピタリと止まった。
「お前最近調子乗ってんじゃないぞゴラッ!!」
突然の怒号とともに、その辺にあったゴミ箱を勢いよく蹴り飛ばす。遠くに遠くに飛んだゴミ箱は蹴られた部分がクシャッと凹み、あたかもお前もこうなるぞと忠告しているように思える。
気の荒い奴って最初に物を蹴って脅しにかかるよな。それで人が怯えると思ってるのかねぇ……。
「おい、聞いてんのかザコウ……っ!!」
「ぼ、僕は全然調子に乗ってないよ……っ」
肩を震わせ怯えているフリをする。
「あ? お前は調子に乗ってんだよ。なんでお前みたいな陰キャがッ、一瑠と仲良くしてんだよっ!!」
まるで「俺の女の子に近づくな」と言わんばかりに睨みつけて威嚇してくる。
あれ? コイツもヤンデレなの?
「もしかして公道くん香坂さんのことが好きなの……?」
「ああ、そうだ。アイツは俺の女になる予定なんだよ。……今は弱みを握られているが……」
「?」
後半はボソボソと喋っていたので聞こえなかったが、好きなら素直に告白すればいいのにと思うのだが……。
「それなら告白しにいけばいいんじゃあ……」
「ああん? 陰キャが俺様に指示してんじゃねぇよ」
いや、一番最適な正解を教えたのだが? 何コイツ? ツンデレなの?
まあ要するに、一瑠に近づけるのが俺だけという魂胆を作り外堀から埋めようっていう考えだな。
「とにかく、これ以上一瑠に近づくな。さもなくばお前をボコボコにしてやる」
うーん……理不尽だ。一瑠から近づいてきてもボコボコにされるじゃん俺。
「分かったらとっとといつもみたいに陰でじっとしとけ、雑魚がッ」
自分から呼び出した癖になんと偉そうに。
手をシッシッと振られ邪魔そうにされたので大人しく教室に帰る。
何も言い返さないのかって? 面倒だし、陽キャの公道に盾突くと変に目だ立つから大人しく陰キャの真似事を続ける。
俺だけが責められるならどうってことないからな。
◆
「なあ、九重さんってめっちゃ可愛いよな」
「可愛いし、清楚で物腰が柔らかくて誰にでも優しくてほんといい女だよなぁ〜」
「それな。俺、マジで狙っちゃおっかなー」
「でも彼女にするにはちょっと清楚過ぎるというか、なかなかさせてくれなそうじゃね?」
「ばっかお前、そういう子をエロエロにするのがいいんだろうが」
休み時間。
クラスの陽キャグループが「九重さんを狙う」という話をしているのを耳にした。
九重さんはクラスに打ち解けてきて緊張がなくなったのか、笑顔を見せるようになった。そして彼女の爽やかな笑顔に魅力される男子も多くなっている。
「今日の放課後遊びに誘ってみる?」
「いいな! あと香坂さんと才崎さんも誘おうぜ!」
「あの美少女三人組と遊べるとか神すぎだろっ」
まだ二時間目というのに放課後の話でワイワイと盛り上がる陽キャ軍団。
今の地味で陰キャなカースト最下位の俺ではクラスを仕切るカースト上位の連中に敵うはずがない。
だからといって変装を解くわけにもいかない。解いてしまえ騒がれるれのは目に見えてる。
見た目一つ変われば関係性が変わってしまう恐ろしさ。これだから有名になるのは嫌だった。俺がTakだとバレた暁には、学校中が俺にこびりまくって芸能人との関わりを繋げてほしいとせがまれるに違いない。
ふと、クラスメイトと楽しそうに話している九重さんを見る。
九重さんが入っているグループには一瑠がいる。それと才崎。あのグループは校内でも有名だ。
ギャルぽい容姿だが、持ち前のコミュニケーション力と面倒見の良さで人気者の
一瑠と去年から同じクラスの親友で、明るく染めた茶髪ボブにピンクの大きな瞳。見た目の派手さとは違い、接しやすいこれまた姉御肌の
そして転校生であり、綺麗に手入れされた水色の長髪に優しい性格を思わせる垂れ目。誰に対しても平等で優しい
間違いなく校内屈指の美少女グループ。狙っている奴は多い。
九重さんももちろん人気だよな……。
地味な状態でも陽キャ軍男子に勝てるような戦略を練らないと———。
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